匂いも魅力のうち、香水つけない女に未来はない
私は結婚当初、夫から洗濯し過ぎだといわれました。
「だって、枕カバーもシーツも、あなたの匂いがするのだもの。洗わなきゃいけないでしょ!」
「僕のものに僕の匂いがするのは当たり前だよ。臭いわけじゃないんだからそんなに洗わなくてもいいんだよ」
私は、清潔=無臭と考えていましたので、「僕の匂いがするのは当たり前」という、日仏の体臭に対する意識の違いを初めて知りました。
確かに、こちらで暮らすようになると、パリジェンヌは良くも悪くもそれぞれ匂いを放っていることに気付きます。
自宅アパルトマンのエレベーターでも、住人の体臭や香水の残り香が充満していることがあります。
エステティックサロンでも、施術のために、衣服を脱いでパレオに着替えていただくと体臭かぷーんと匂う女性もいらっしゃいます。
頭皮のマッサージをしながら、
「このお客様は何日くらいシャンプーをなさっていないのかしら?」
と思うこともしばしばあります。
ところで、毎日シャンプーしてますか?
私は、パリに住む前は、入浴のたびに、ほとんど毎晩していました。
顔も体も毎日洗うのだから、髪も洗うのは当たり前の事でした。
どうせ又シャンプ-してもらうとわかっていても、美容師さんに汚れた髪を触らせるのは申し訳ないと思い、美容院に行く前日さえも自分で洗髪していました。
髪の毛には汚れがついたり、食事の匂いも移ってしまいますので、周囲の人に自分の生活臭や体臭を嗅がせるなんて、恥ずべきことで、社会人としてのマナー違反だと思っていたのです。
ところが、パリのエステティック専門学校では、洗髪は週に1、2回で十分。毎日行うと、頭皮を傷つけてしまい抜け毛の原因になると、学びました。
年配のマダムは、自宅では洗わずに、シャンプー&ブローだけのために、毎週行きつけの美容院に足を運ぶのだとか。
確かにパリにはいたるところに美容院が目につきます。
いくら乾燥した気候のパリでも、髪の匂いが気になるのは避けられません。
さらに、TVでは毎日、48時間清潔さが保てる制汗・デオドラント剤の宣伝が流されています。とっても効果がありそうなのは想像ができますが、でもどうして48時間も効果が長続きする必要があるのでしょうか?
蛇口をひねれば、すぐにお湯が出るこの時代に……。
毎朝シャワーを浴びれば、24時間の消臭効果があれば十分なはずですよね。
つまり、2日に一回しか体を洗わないことを想定していることになります。
髪の匂いばかりか、体臭もまき散らしているのです。
でもさすがに自分の体臭だけでは魅力に欠けるので、香水をシュッシュッ、シュッシュッ浴びて、体臭と混ざりあった個性的な芳香を漂わせているのです。
香水は、身だしなみに欠かすことができないのもわかります。
ある日、一人の男性が、日本文化がお好きな奥様へのプレゼントに香水をお買い求めに来店されました。
爽やかなグリーンノートの香水を賦香紙(香水などをつけて嗅ぐために使う細長い紙のこと)に吹き付けて、お試しいただきました。
すると彼は、まるでワインのテイスティングでもするかのように、瞼を閉じて、その高い鼻すれすれに賦香紙をゆっくりと滑らせながら、香りを味わうように吸い込み、そして
「デリシュー」
と感想を述べられました。
フランス語でデリシューとは、すなわち英語のデリシャスの事。
食べ物が美味しい時のみならず、香りに魅了された時にも使うとは、初めて知りました。
パリ暮らしも長くなってきましたが、いまだにフランス語表現は学ぶことがたくさんあります。
それにしても、フランス人は本当に香水が大好き!
« Une femme sans parfum est une femme sans avenir. » Coco Chanel
香水をつけない女性に未来はない
これは、シャネルのセリフ。
香水付けないなんて、女失格!なのですね。
では、パリジェンヌは、いったい何歳くらいから香水に目覚めるのでしょうか?
エステティック専門学校の販売の授業では、出産祝いに赤ちゃん用香水を贈ると学びました。
赤ちゃんの時から香水付けるの?と驚いたのを覚えています。
通常、赤ちゃん向けフレグランスは、パルファンというよりは、ロー ド サントゥル(直訳:香りつきの水)と呼ばれアルコール分が入っていません。
生まれたばかりの赤ん坊のデリケートな肌に配慮して、肌に刺激のない原料のみを使用し、できる限りアレルギー反応をおこさないように工夫されています。
出産祝いやクリスマスプレゼントにフレグランスを贈る人は少なくなく、フランスの赤ちゃん、子供向け香水売上高は、1100万ユーロ約14億円(2011年)にも上ります。
フランスで最初にこの市場を開拓したのは、Christian Dior。
1970年に、 子供向けにアルコールをわずかしか含まないオーデコロンBabyDiorを発売しました。しかしながら時期尚早で、成功を収めることはできませんでした。
それから十数年以上経て、1986年に子供服ブランドのBonpoint が Eau de Bonpoint を発売。
1987年に同じく子供服ブランドTartine et Chocolat がPtisenbonを発売し、これは今では、子供向けフレグランスとしては世界1の売上を誇っています。
プチサンボンなら日本でも、若い女性向けの爽やかな香りとして根強い人気があるのでおなじみですね。
その後、1994年にJean-Paul Guerlain も Petit Guerlainを生み出しましたが、残念ながら今は製造していません。
Bulgari のPetit et Maman、BurberryのBaby Touch、 L'occitane のEau maman bebeは親子で同じ香りを共有できるように作られています。そのほかには、天然植物エキスを使用したヘアケアで有名なブランドKlorane のEau de bebeがあります。Kloraneは、ベビーケア商品も販売しているので、赤ちゃんの肌にやさしいブランドとしてのイメージも手伝って、Eau de bebeは根強い人気があります。
香水瓶のふたがぬいぐるみの顔になっているKalooのParfumもとてもかわいいです。
毎年クリスマスが近づくと、各ブランドからプレゼントにぴったりのぬいぐるみとセットになった子供用クリスマスコフレが売り出され販売を促進しています。
フランスの出生率は2.08(2015年)でアイルランドと並んでヨーロッパでトップのため、パリには思わず手にとってみたくなるようなかわいいベビー用品やおもちゃが溢れています。
生まれたばかりの時からセンスのいい小物に包まれ、香りをたしなみ、何年もかけてお洒落の作法を身につけて……そしてパリジェンヌが出来上がるのです。
パリジェンヌは一日にしてならず。
「ある時、映画館で隣に座ったマダムの香りがとても懐かしくて、30年以上も前の自分の子供のころを思い出したんだ。その女性の横顔にはもう見覚えはなかったのだけれど、それでも匂いで小学校の時の担任の先生だとすぐにわかったのさ」
友人が感動的な再会の話をしてくれたことを思い出します。
毎年(2012年度は1200~1300)数え切れないほどの新しい香水が発売されるにもかかわらず、同じ香りを身にまとい続け、30年以上も生徒の記憶の中にしっかりと存在し続けることができるなんて、さすがパリジェンヌ。
« Le parfum est la forme la plus intense du souvenir. » Jean-Paul GUERLAIN
香りほど思い出を強烈に記憶することができるものがあるだろうか。
これは、ジャン・ポール ゲラン氏の言葉。
私は、日本にいたころから、シャネルのアリュールを愛用していました。
香りが好きだったのはもちろんですが、いつかは、アリュールのある女性*になりたいとの願いからでもありました。
*アリュールとは、フランス語で振舞いに気品や威厳があること。
ところが、夫と知り合った頃、
「アリュールつけてるんだね」
の一言で、つけるのをやめてしまいまいました。
前の彼女と同じ香水なんて、もうつける気がしませんよね。
その後は、ゲランのイディールを使っていますが、また新たな香水を探しているところです。
生涯使い続ける香りには、まだ巡り会えていません。
私の香水探しはこれからも続きます。
あなたも香りで誰かの記憶に残れるように、自分に相応しい香水選びをお楽しみください。