千代に八千代にパリジェンヌのように美しく

パリのエステシャンがあなたに伝えたい、年を重ねても美しいパリジェンヌのきれいの秘訣

パリで話題の「ミルフィーユ美容法」

パリで話題の「ミルフィーユ美容法」

 

ミルフィーユは私の大好物。

サクサクのパイと濃厚なバニラクリームをほおばる瞬間のこの幸せな気分は、きっと私をきれいにしてくれるに違いありません。 

でも、いくら美容のためとはいえ、クリームがたっぷりのったパイを1枚1枚顔に張り付けてパックをするのが、今パリで流行りの美容法!!!なんてことではありません。

あしからずご了承ください。

 

本題に入る前に、ちょっと話は横にそれますが、パリに旅行された方なら、街のあちこちで人目もはばからず男女が抱き合ってキスしているのを目にされたことがあるでしょう。

 

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 Le baiser de l'Hotel de ville    Robert DOISNEAU

 

恋人同士だけでなく、家族や友人、職場の同僚との挨拶に、口づけではありませんが、2回、3回、人によっては4回、頬と頬を合わせてキスするのがこちらの習慣です。

頬にとはいえ、中にはねっとりと唇を押しつける男性もいるので、私はいまだにこの習慣はあまり好きではありません。べっとり唾をつけられることもあるのですよ!

「郷に入っては郷に従え」と自分に言い聞かせ、仕方なく従っていますが……。

 

てかてか脂ぎった肌やカサカサに乾燥した肌、不衛生そうなくすんだ肌…、そんな肌と接触するのを想像してみてください。

 

男性だって、ファンデーションでこってり塗り固められた顔にキスするなんてきっと避けたいことでしょう。

 

逆に、女性が赤ちゃんのすべすべ肌につい指先で触れたり頬ずりしたくなるのと同様に、女性の滑らかな肌に男性も触れたくなるものではないでしょうか?

 

結婚するカップルの2組に1組が離婚するパリでは、年齢に関係なく、おそらく未婚、既婚にも関係なく、男女は常に出会いのチャンスを求めています。挨拶とはいえ、キスの際に、お互いの肌年齢や肌の相性を探っているに違いないと私は思っています。

気が合うことを「肌が合う」というように、初対面の男女は、この人とはうまくいくのかどうか、挨拶のキスから窺っているのです。

 

そんなパリジェンヌが肌年齢を若く保つことに関心がないはずがありませんよね。

前置きが長きなりましたが、というわけで、数年前から注目されているのが「ミルフィーユ美容法」なのです。

 

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ミル :1000の、たくさんの  フィーユ : 葉、紙片、ごく薄い板

お菓子のミルフィーユのパイ生地は、小麦粉生地にバターを乗せ何回も何回も折りたたむことによって層がまし、パリパリの食感が得られることからそう呼ばれるようになったといわれています。レストランでは、薄切りの肉や魚、野菜や果物を何層にも重ねた料理をミルフィーユ仕立てと呼んでいます。また、フランスでは食べ物のみに限らず、何重にも積み重なった層状構造のメタファーにもミルフィーユ」という表現が使われます。

 

パリジェンヌの毎日の肌のお手入れはとてもシンプル。

クレンジング用乳液やローションでお化粧や肌の汚れをふき取ってからクリームを塗っておしまいです。そのほかには、年に数回プロのエステティシャンの手に委ねて、ディープクレンジングや必要に応じた特別ケアを受けるだけ。

 

それに対して私たち日本人女性は、ダブルクレンジングから始まり、毎日5~6種類の化粧品を使用して、美肌を保つために日々の努力を怠りません。

日本女性の肌が年齢を重ねてもきれいなのは当然ですよね。

こちらでは「陶器のようななめらかな肌」と褒めたたえられています。

 

日本女性のような肌に憧れて、サロンに足を運んでくださるお客様に、私は日本流のスキンケアをアドバイスしていますが、ずらっと並べられた数々の基礎化粧品を目にすると、

「とてもこんな面倒なこと毎日続けられない!」

とパリジェンヌは逃げ腰になってしまいます。

 

きちんとお手入れをすれば、肌はどんどんきれいになるのに、最初のうちは納得してもらえなくて残念でたまりませんでした。

でもくじけるわけにはいきません。

実際に体験して、効果を目にすればわかってもらえるはずです。

そこで、ビューティセミナーを開催して、手とり足とり日本流のスキンケアを伝授することにしました。

 

 

「日本へようこそ」おもてなしの心を込めて、あらかじめ温めておいたおしぼりをお出しするところから始めます。

集まったのは20代から50代までのパリジェンヌ15名、日本流スキンケア初体験に興味津々。

まずはクレンジング&ウォッシングから取りかかります。

クレンジングは、ファンデーションやチーク、アイシャドーやマスカラ等のお化粧をしっかりと落とすこと。洗顔は、汗や皮脂による汚れや古い角質をやさしく取り除くことでそれぞれ役割が異なります。私たちには当たり前のこのダブルクレンジングをしっかり理解してもらわなくては、日本流ケアは始まりません。お肌の表面に汚れが残ったままでは、どんなに上等なクリームを塗っても効果なんて得られないのですからね。

 

いまだに継承されているフランスの伝統的な美容法では水を使用しません。

空気が乾燥しているうえに、カルキ成分の多いフランスの硬水で顔を洗うと、さらに肌を乾燥させることから、

洗顔なんてもってのほか!」

と先祖代々受け継がれているのです。

けれども近年は、日本の化粧品ブランドの推奨するダブルクレンジングも徐々に定着しつつあり、フランスでも脂性肌向けにムース洗顔料が商品化されています。

 

何を隠そう私自身も、名門エリゼマルブフエステ学校でしっかり学んだフランスの流儀にならって、洗顔なしの美容法を実践してみた経験があります。もともと乾燥肌の私には、この方が適してるかもしれないと半信半疑で試してみました。ニキビができるとか、肌が脂っぽくなるというトラブルはありませんでしたが、一か月以上続けるうちに肌の滑らかさがなくなり、手触りがざらついてきたのを感じて、結局元に戻しました。

暖房の影響で室内の乾燥が激しい冬場に一時的に取り入れるには効果があるかもしれませんが、

「でも、やっぱり顔も洗いたい!」

 今では「日本流ダブルクレンジングは美肌つくりには欠かせない」と自信をもってお勧めできるだけに、顧客様への説明にも力が入ります。

 

洗顔の話を始めると、パリジェンヌは、洗顔料を泡立てずに少量のぬるま湯で溶いて乳液状にして使うと思っていることに驚かされました。せっかく、肌に摩擦の負担がかからないようにと、きめ細かな泡が立つように作られているのに残念なことですが、乳液でクレンジングする習慣があるから仕方ないのでしょうね。

フランスの硬水では少し泡立ちが悪いのもありますが、それだけではなく、石鹸のような固形や液体ならともかく、チューブ入りのクリーム状の洗顔料が泡立つということを想像できないからに違いありません。まず目の前で、泡立てのデモンストレーションをしてみせます。

 

両手をぬるま湯で濡らしてから少量の洗顔クリームを手の平のくぼみにおいて、ぬるま湯を加えながら素早く泡立てます。ほんの1cmほどのクリームが、見る見るうちに手のひらいっぱいのムースに変化します。

「ワオ!」

「手品みたいね!」

歓声が上がる。

「ほらね、こんな風にホイップクリームみたいになるんですよ。ふわふわだから手に取ってみてください。でもお砂糖入ってないから食べないでね」

と一人ひとりに見せてまわる。

 

「こんなムースで顔を洗ったら気持ちよさそうでしょう。さっそく皆で試してみましょう」

 

簡単な作業だけれど、慣れてないと一苦労。クリームが多すぎても水分が多すぎてもホイップクリームみたいには膨らみません。乳液状になってしまうのです。そんな不器用なパリジェンヌのために、泡立てネットも用意してあります。これさえあればだれでも簡単に泡立てることができます。

 

さっそく洗顔

「泡がとてもやわらかくて気持ちいいわ」

「水で洗い流すとさっぱりするわね」

「肌がつるつるになったわ」

「全然突っ張らないわね」

期待していたとおりの反応で出だしから好調。

 

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「次は、水のカルキ成分が肌に残らないように、コットンに保湿化粧水を含ませて軽くタッピングしてください」

 

私は洗顔後、美容液やクリームでしっかり保湿するから化粧水も購入するのはもったいないと節約していたことがあります。けれども化粧水で肌の表面を整えてからの方が断然次の化粧品の効果があることを実感してからは、今では保湿化粧水は欠かせません。フランスには、お化粧落としや皮脂の汚れをふき取るための化粧水は数々ありますが、保湿化粧水は見当たりません。これも日本との違いです。

 

引き続きマッサージの説明を始めます。

慣れてしまえば1セットほんの5分くらいのセルフマッサージですが、初めてだと難しく感じるかもしれないので、皆が覚えられるようにできるだけ簡単に顎先から上へ上へと額まで美肌つくりのこつを指導していきます。クライマックスは、眼精疲労やイライラした時に気分を鎮める効果のある目の周囲の3点のツボ押し。同僚エステティシャンと手分けしてまずは参加者全員にツボ押しを体験してもらい、ツボの位置と指圧をしっかりと記憶してもらいます。

 

「それでは全員一緒に、試してみましょう。目を閉じてください。指の腹を使ってやさしくアン、ドゥ、トロワで徐々に力を入れながら指圧を加えていきます。爪で肌を傷付けないように気を付けてください。1点目は眉頭の内端にあるくぼみです。軽く押すだけで大丈夫です。今度は1.2.3で徐々に力を抜いてみましょう。2点目は眉の中ほどにある小さなくぼみです。1.2.3で押して、1.2.3で離してください。3点目は眉尻のすぐ横にあるツボです。1.2.3.1.2.3。ゆっくり目を開いてください。先ほどよりも視界が明るく感じませんか? 仕事中にイライラした時や、パソコンの使用中に目の疲れを感じたときに、ぜひ試してください」

 

「なんだかポカポカして、いい気持ち」

「あ~とってもZENだわ。明日からさっそく試してみるわ」

 

ZENとは、日本の‟禅”に由来し「心が穏やかなさま」を意味します。

ティッシュペーパーでマッサージクリームをふき取ってから、もう一度化粧水でタッピングして肌のほてりを鎮めます。美容液、アイクリームそして保湿クリームを塗布して終了。

 

「お肌に触ってみてください。感触はどうですか」

「やわらかい」

「滑らかだわ」

「くすみがとれて若返ったわ」

 

「いいことばかりでしょう。ぜひ明日からも続けてくださいね」

 

「でも毎日マッサージはできないわ」

 

「難しく考えなくても大丈夫ですよ。皆さん毎晩クリームは付けるでしょう。マッサージの手順でクリームを塗布すればいいだけですよ」

 

「そうね」

「それならできそうだわ」

 

ミルフィーユ美容法」とは、この日本では基本的なフェイシャルケアのことを、ビューティセミナーに参加した人気ブロガーのソニアさんが、肌の上に何層にも化粧品を積み重ねることをミルフィーユに例えて、名付けたのが始まりです。ミルフィーユはフランス菓子だけれどミルフィーユ美容法は日本製なのです。

 

スポンジケーキにクリームやジャムを挟んで何層にも重ねた洋菓子、レイヤーケーキから、日本流美容ケアはレイヤーリングとも呼ばれています。

 

どちらの名称も、パリの美容フリークの間では、すっかりおなじみになりました。

ダブルクレンジングの習慣は、素肌美を手に入れるためには欠かせないとの評判を得て、顧客様の年齢に関係なく、洗顔ムースの販売は増大しました。

伝統的な美容法に固執するのではなく、新しいものも取り入れる好奇心を持ち続けることが、きれいに年齢を重ねる秘訣なのですね。

 

ミルフィーユ美容法」、パリジェンヌを納得させた日本の美肌習慣を、私たちも続けていきましょう。

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