「夏のパリは最高! パリジェンヌがいないから!」
パリジェンヌは、うぬぼれが強くて生意気で傲慢、その上自分勝手。
フランスでのパリジェンヌの評判は、散々です。
仕事とプライベートの両立で大忙し、時間に追われ、いつも早足で駆けずり回る日々。
パリの地下鉄や病院、学校や郵便局は年中ストライキ。
車に乗れば渋滞に巻き込まれること間違いなし。
ストレスだらけで、周囲に配慮をする心の余裕はありません。
夏のヴァカンスを心待ちにしながら、毎日イライラしながらせっせと働いているのです。
パリジェンヌのヴァカンス
夏になるとパリからパリジェンヌがいなくなるのは本当です。
7、8月には、パリの住人の70~80%は、ヴァカンスに出かけるからです。
お世辞にも清潔とは言えない、臭くて不快な地下鉄や、気温が上昇すると息が苦しくなるほどの大気汚染から逃れるために、日常のストレスから解放されるために、パリのアパルトマンから飛び出して、田舎や海辺のセカンドハウスに大移動するのです。
「別荘があるなんて、パリジェンヌは優雅に暮らしているのね」
と思われるかもしれませが、富裕層だけではなく一般のパリジェンヌの家庭もヴァカンスハウスを所有しています。
フランスは、日本のような地震による家屋の崩壊がないため、住宅は大変長持ちです。
ご先祖様から代々引き継がれてきた100年以上前に建てられた、家も珍しくありません。
我が家は、毎年フランス西部ブルターニュ地方のブレア島で、夫の曽祖父母の時代から同じ家で、夏休みを過ごしています。
今年は出発直前に車が故障したため、電車で出かけることになりました。
パリ モンパルナス駅から新幹線で3時間、その後ローカル電車に乗り換えて45分でパンポル駅に到着します。そこから港まではバスで15分。さらに船に揺られること10分で目的地、ブレア島に到着します。
運よく満潮時に到着したため、船は陸に一番近い埠頭に着きました。
ブルターニュ地方の海岸は、潮の満ち引きが非常に激しいため、干潮時には、800m離れた桟橋から20分ほど余分に歩く羽目になります。
干潮時、海岸線は干上がってしまうため、船は遠く離れた埠頭に着きます。
上下の写真は同じ場所の満潮時と干潮時です。
消防車とトラクター以外は走行禁止のため、島内は徒歩または自転車で移動します。
自転車と手押し車は島の必需品です。
ブルターニュはいつも雨
天気予報を見ると、フランス西部はいつも曇りか雨マークがついています。
快晴はとても稀。
もう20年くらいこの島で夏休みを過ごしている私の経験では、確かによく雨が降ります。
でも、実際には、一日中雨が降ることも稀です。
朝起きると雨が降っていても、お昼頃からは、快晴になることも珍しくありません。
逆もあります。庭で気持ちよく日光浴をしていると突然まっ黒な雲が迫ってきて、にわか雨に見舞われることも珍しくありません。
そればかりか、青空にもくもくと湧き出た白い雲の元、突然の雨が降ってくることもあります。いずれも15分くらい待っていれば止みます。
島周辺はいつも風が強く、雲の動きも早いので、天候がとても変わりやすいのです。
そのため天気予報はあまりあてになりません。
その日、その時の、お天気に合わせて、ビーチに出かけたり、庭の長椅子で読書をしたり…。ヴァカンスなのですから、時間を気にする必要なんてありません。
今日の予定は、お日さま次第。
ストライキもデモ行進も渋滞の心配もありません。
ここでは時間がゆっくりと流れているのです。
もうひとつのパリ?
ブレア島の人口は361人(1年を通しての居住者)
総家屋数847戸のうち75%は、セカンドハウス。
ヴァカンス中は、家族そろって過ごすため、島の人口が一気に増大します。
その上、一日当たり3700人の観光客が訪れるため、昼間は6000人以上に膨れ上がります。
我が家のお隣さん一家もパリの住人です。
夫は、さらにそのお隣のご夫婦とは、結婚前にはパリでも同じ通りに住んでいるご近所さんでした。
子供のころからずっとこの島で夏休みを過ごしている夫に言わせると、ヴァカンス族の80%はパリから来ているとのこと。
ブレア島は、北島と南島に分かれています。
北島では、民家はまばらで、今でも手つかずの自然が豊かに残されています。
有機栽培農業や牧畜がおこなわれています。
収穫された野菜や果物は、南島の朝市で販売されています。
島の先端からは、英仏海峡を望むことができます。
南島には、港やホテル、海水浴場があります。
さらに中心部の広場には毎日朝市がでて、夏の間中はとても賑わっています。
島中から人々が買出しに集まってきます。
ここでは手押し車が大活躍です。
買い物を終えると、食料品を運ぶだけでなく、途中で歩くのに疲れた子供も乗せて、坂道を登りながら家まで帰っていきます。
普段は、流行に敏感でお洒落なパリジェンヌですが、飾り気のない素のままで、くつろいで過ごしています。
ヴァカンス中は、着飾る必要はないのです。
島には、もちろん美容院もネイルサロンもエステティックサロンもありません。
男性は、髭を伸ばしたままにしている人が多く、日に焼けるにしたがって、ワイルドな魅力が加わります。
我が家では、毎朝、近海で捕獲された新鮮な魚介類と島の有機野菜や果物を購入して、夫が料理をするのが、ヴァカンスの習慣です。
私は、もっぱらあとかたづけ専門です。
生牡蠣やムール貝、オマールや手長海老など海の幸を存分に堪能します。
さらに毎年恒例の楽しみは、ブルターニュ地方の伝統菓子 クイニーアマンを頬張ること。
バターたっぷりのサクサクした食感と表面にはたっぷりとカラメルがかけられた濃厚な味わい。毎年必ずお気に入りの店で購入します。
ここは誰の家
代々受け継がれている島の家には、それぞれ名前がついています。
都市部の住所のように 番地と通りの名前の組み合わせに体系化されていないので、
表札の名前で、誰の家かわかるようになっています。
KER TAD-COZ
ブルターニュ語でKerは家のこと。これは「おじいちゃんの家」という意味です。
KER WENNILI ツバメの家。
Les Vagues 波のことです。
海辺の家にぴったりの素敵な名前ですね。
この車エビの表札の家は、もちろん 「車エビの家」と呼ばれています。
我が家には、最初の家主である曾祖母の名前が付けられています。
バラ色の海岸線
島の海岸線はバラ色の花崗岩で覆われています。
唯一の海水浴場も砂浜ではなく、花崗岩でごつごつしています。
花崗岩でできた海の家。
満潮時には、海水に浸ります。
大潮のときには、まるで海に浮かんでいるようです。
昔から、家屋の外壁にもこのバラ色の岩が使われています。
夫の仕事の都合で、例年より遅めのヴァカンスでした。
8月の最終週になると、皆がヴァカンスを終えて立ち去り、島は多少落ち着きを取り戻してきました。
最後の数日間は、毎朝ビーチを独り占めすることができました。
夫は毎日泳ぎますが、ブルターニュの海水は冷たすぎて、私はもっぱら日光浴のみです。
潮の満ち引きが激しく、天候も変わりやすい。
車は走っていないため、空気がとても澄んでいます。
今夏は40度の猛暑に見舞われ、蒸し暑くて寝苦しかったパリから比べると、ここは別世界。このピュアな空気を思い切り吸い込むと、体の中から浄化されるのを感じます。
激しい潮の満ち引きや、突然のにわか雨が、1年間の疲労もストレスもすべて洗い流してくれ、体力も気力も取り戻すことができるのです。
パリジェンヌたちは、しっかり英気を養って、またパリに戻っていきました。
来年もヴァカンスを楽しむために、また1年間、忙しい毎日が始まります。
フランス西部のブレア島では、日没が遅く、毎晩10時半くらいまで明るいのに慣れていたので、パリに戻ってくると日の暮れるのが早く、今年もまた、夏が終わったことを実感します。
島の画家の作品です。