千代に八千代にパリジェンヌのように美しく

パリのエステシャンがあなたに伝えたい、年を重ねても美しいパリジェンヌのきれいの秘訣

夢見るパリジェンヌ

30年以上前、日本の化粧品メーカーがフランス市場に参入した当初は、

「日本製のクリームを塗ると、肌が〔日本人のように〕黄色くなる!」

と中傷されたそうですが、今では日本女性の陶器のような滑らかな肌はフランス女性の憧れであり、日本製化粧品=ハイクオリティーと認識されています。

 

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基礎化粧品の中で、日本に比べて圧倒的に需要が高いのが、アイクリーム。

フランス人の顔は堀が深く、目元がパッチリしている分(平べったい顔の日本人にとってはうらやましいかぎり)、若いうちから小じわができやすいのです。

その上、目元の皮膚は薄く、肌が透き通るように白いと、さらにくまが目立ちやすいこともあって、二十台前半からアイクリームを使い始める女性も少なくありません。

せっかく念入りに化粧をしても、目元に疲れが出ていると老けて見られます。

反対に、目元が生き生きしていれば、多少のしみやたるみがあっても若々しく見えますよね。

また、「目は口ほどにものを言う」との諺の通り、目は言葉同様に感情を伝えることもできるのですから、目元のケアを怠るわけにはいきませんね。

  

そんなフランス人女性の要望にこたえるため、私の働くエステティックサロンでも、効果的なアイクリームをヨーロッパ向けに開発し発売することになりました。

 

ジャーナリストがあたかも実際に使用して効果を実感したかのように新商品を褒め称える美容記事は、何百万円もかけて女性誌1ページ分の宣伝広告を掲載するよりも、ずっと説得力があり、女性心を捉えることができます。

雑誌に掲載されると、即座に売れ行きが伸びるのです。

いかにジャーナリストの関心を引き付けることができるかが、アイクリーム発売の成功の鍵を握っているといっても過言ではありません。

美術館を借り切ってジャーナリストを招待し、新商品発表会を行いました。

 

当社社長からの新アイクリームの発表の後、ジャーナリストには、実際にお目元に塗布してそのテクスチャーを体験していただきました。

「なんだか目元がピンと張ってきたような気がするわ」

と言いだす人まで。確かに先ほど即効性を強調したとはいえ、それはちょっと大げさな反応だけれども、ジャーナリストの評判は上々。

 

お帰りに、もちろんアイクリームをお持ち帰りいただき、その卓越したアンチエイジング効果をじっくりと堪能していただきます。

 

ところが後日、

「このアイクリームの値段はいくらですか?」

一人の来店客が、バッグからアイクリームを取り出してそう尋ねる。

「それは来月発売予定の新商品ですが、どちらでお求めになられたのですか?」

「あらそうなの。インターネットで50ユーロで買ったのよ」

「50ユーロ? 販売価格は180ユーロの予定なんですよ」

「180ユーロ!お高いだけのことはあるわね。使い始めてから目元の小じわが薄くなってきたのよ。いい買い物をしたわ」

 

美容ジャーナリストは、各社から有り余るほどの新商品を贈られるに違いありません。

けれども、試しもせずにすぐに売り払うなんて、ひどい話。

どうかこれ1件だけで済みますようにと願うばかりでした。

 

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ところで、化粧品の値段には、いったいどんな根拠があるのでしょうか? 

私は、日本円にしておよそ10万円相当の超高級クリームを販売しています。化粧品は、ブランド品のバッグやアクセサリーとは異なり消耗品なので、3か月もすれば使い切ってしまいます。もちろん肌を蘇らせる効果があり、評判のいい商品ですが、それにしても大変高価なものです。

 

 ある高級ブランドの話ですが、新発売する口紅の値段を決める際に、パリの高級デパート、ボンマルシェの化粧品売り場で全ブランドの値段をリサーチしたうえで、一番高い値段にさらに1ユーロ上乗せした価格に設定したといううわさを聞いたことがあります。

アンチエイジングクリームと同じトリートメント成分が配合されていると大々的に広告をしていました。

しかしながら、値段が高い方が質が良いに違いないと思う消費者心理に付け込んだマーケティングの一例にほかなりません。

 

 

数年前にフランスで話題になった興味深い調査結果があります。2013年に国立消費研究所¹が、50ml(平均的なクリームの容量)あたり3ユーロから96.90ユーロの価格帯、スーパーマーケットで販売されているお手頃なものから百貨店や化粧品店で販売されている有名ブランド品まで9種類のしわ防止クリームを対象に行った比較テストによりますと、なんとディスカウントスーパーマーケットチェーンのプライベートブランドのクリームが2位を獲得しました。

1個たった3ユーロ(およそ390円)しかしないのにです。

 

さらに驚いたことに、その翌年に消費者連合会²が発表した15種類のしわ防止クリーム(50mlあたり3ユーロから78.50ユーロ)を対象にしたテストでは、その同じクリームが1位に選ばれました。このクリームは瞬く間に品切れになり、残念ながら私は買い損ねてしまい、試すことはできませんでした。

 

価格と効果は必ずしも一致しませんでした。

 

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両調査とも、商品名は伏せて、クリームひとつにつきおよそ30人の参加者を対象に行われています。4週間使用後、皺の深さや皮膚の凹凸を機器で測定しています。それに加えて、参加者自身がクリームのテクスチャーや色、香り、使用感を評価しています。

面白いことに、測定の結果、しわ防止には大した効果がないと実証された商品の中に、参加者からはとても評判のいいものがあったそうです。

 

効果と顧客満足度は、効果と価格同様、必ずしも一致しないことがわかります。

 

いわゆる有名ブランドのクリームは、しわ取り効果という点ではいまひとつの評価しか得られませんでしたが、フェイシャルクリームとしては良品質で、肌につけ心地が良く女性たちを満足させていることがわかりました。

 

そして、国立消費研究所が発行する雑誌「60millions de consommateurs」(6000万人の消費者の意、フランスの人口が約6000万人なので)2016年10月号でも又、同様の比較テスト結果が公開されました。

先回とは異なるしわ防止クリーム1個当たり4.70ユーロから100.90ユーロの商品まで10点を選んで、28日間使用後、効果とテスト参加者の使用感を調査しました。見事1位に輝いたのは、またしても大手スーパーマーケットチェーンのプライベートブランド、5.95ユーロのグレナディン抽出成分とアルガンオイル配合のクリームでした。

皺防止のみならず、保湿や肌の張りにも効果が見られ、参加者による使用感も上々で、なおかつ肌に刺激を感じる人もなく、すべてにおいて好評でした。

ちなみに最下位は日本でも有名な某高級ブランドの100ユーロを超えるクリームでした。

 

またしても値段と効果は一致しませんでした。

 

かつて、エステティック専門学校で化粧品学を学んだことから、手作り化粧品に興味を持ち、自宅のキッチンで作ってみた経験によりますと、自分の好みに合わせて成分を選んでも、原材料費は保湿化粧水1本2~300円、アンチエイジングクリームもせいぜい3~400円しかかかりません。

だとすれば化粧品ブランドによる価格差はどう裏づけされるのでしょうか?

私は、化粧品の製造は料理に似ていると気づきました。

美味しい料理というのは、もちろん料理人の腕もさることながら、食材の品質や産地選び、新鮮さがあってこそのものです。

フランスの三ツ星シェフの中には、信頼できる業者から仕入れるだけでは飽き足らず、ついには農地を買い取り、自ら野菜や果物の栽培に乗り出したシェフもいるほどです。レストランのみならず農園まで営んでいるのですから、フルコースディナーが一人前5~6万円するのには納得のいく理由があるのです。

 

化粧品然り、肌に安全でかつ効果の高い化粧品は、選び抜かれた原材料から作られると考えても間違いありません。

当然それは価格に反映されます。

したがって値段が上がれば上がるほど、品質も良くなる確率は高いとは言えるでしょう。

しかしながら高いお金を払いさえすれば必ず、それに比例して品質の良い化粧品を手に入れることができるのでしょうか? 

それはあくまでも可能性の問題であって、絶対とは言いきれません。

なぜなら市販されている化粧品の価格には、原材料費以外にも様々な要因が積み重なっているからです。

 

まずは化粧品そのものの処方にかかるコストについて考えてみましょう。

化粧品製造には、原材料費のみならず、肌になじみやすいテクスチャーに仕上げる製法の技術費や、肌への有効性と安全性をテストする費用も必要です。

 

次にマーケティングにかかるコスト。

消費者に好まれるパッケージングの製作やサンプルの製造配布並びに宣伝広告費、そして新商品の売り上げを左右するもっとも重要な要素の一つであるイメージキャラクターの有名人起用。

有名ブランドが新商品を発売する際の宣伝広告費は、化粧品の製造コストを大幅に上回っていると思われます。パッケージングの方が中味より高価であるとも言われています。

そこへさらに、新商品の研究開発費と人件費、利潤を加え販売価格は決定されます。

では、このマーケティングコストを削除すれば、高品質の化粧品が廉価で手に入り、消費者は皆満足するのでしょうか? 

 

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その答えを出す前に、化粧品の使命について考えてみたいと思います。

「化粧品とは、身体を清潔にし、保護し、健やかに保ち、容貌を変え、芳香をつける、もしくは臭いを緩和するために、体の表面や歯、粘膜に塗擦、散布されることを目的とした調合物である」

エステティック専門学校では暗記させられました。

けれども本当に身体表面の美化、装飾のために使用されるもの、それだけの役割なのでしょうか? 

 

なによりもまず最初に消費者の目に映るのは、パッケージ並びに容器にほかなりません。容器が洗練されたデザインであると手に取ってみたくなる、さらには自宅のバスルームに置き、毎日目にしたくなるといっても過言ではありません。

そのために各社は、何十種類ものデザインの中からターゲットの顧客層の好みに合わせたものを選りすぐって商品化しているのです。

 

次に、ふたを開いて実際に目にした容態がうっとりとまではいかなくても、少なくとも不快感を与えない色や香りでなければなりません。ここで拒否反応を招いてしまっては、どれほどの効果を謳っていても購入には至りません。

 

そして最後に、実際に手に取り肌に塗布してみた感触で納得させられるのです。

何よりもまず、つけ心地の良いもの、肌に触れた途端に吸い込まれるようにスッとなじみべたつかない感触、鼻から直接吸い込んでもしつこすぎない香り、そしてその化粧品がもたらしてくれるであろうさまざまなミラクルを信じこむからこそ、数千円、いえ数万円もの出費を惜しまないのです。

効果は、例えサンプルで試したからと言って、一日や二日で現れるものではありません。

表面的な潤い効果は感じられるでしょうが、塗布した瞬間にシミも皺も消えていきなり10歳も若返ったとしたら、肌の表面で化学反応が起こっているみたいで、かえって恐ろしいことですよね。

肌のターンオーバーは28日周期で行われているのですから、理論的には四週間前後、表皮が新しい細胞に生まれ変わるまで本当の効果は現れません。

 

しかしながら、不思議なことに、使い始めてすぐになんだか肌の調子がよくなったり、同僚から褒められたりという事が現実に起こりうるのはなぜでしょうか? 

 

それは「この化粧品は私をきれいにしてくれるに違いない」とすっかり信じ込まされているからなのです。

CMや女性誌で繰り返される美肌効果や、憧れのスターと同じものを使用すれば彼女に少しでも近づけるかもしれないという女性心理に語りかける、言い換えれば、消費者に夢を見させるのがマーケティングの役割でもあるのです。

一概に必要のない経費とは言い切れないのです。

 

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では、結局のところ良い化粧品はどうやって選べばいいのでしょうか? 

同価格帯であれば、マーケティングコストよりも研究開発費や原料費に重きを置いている商品の方が、その逆のものよりも品質が優れているのは言うまでもありませんが、そんなことは消費者の私たちは知るすべもありません。

結局、気に入ったものを購入し(アレルギー反応等がなければ)とりあえず使い切ってみて、自分で効果を判断するしかありません。

  

ところで近年、ニベアとドゥ・ラ・メールの成分が非常に似ていると話題になっています。クリームとしてのベース部分はほぼ同じで、ドゥ・ラ・メールに含まれている独自製法の褐藻エキスが高価な理由なのではと考えられています。

ニベアは、169gでおよそ500円に対してもう一方は60g25920円。値段はこれほど差があるのに効き目は同じという事でしょうか? 

 

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私は、若い時から持病があり毎朝一錠薬を飲んでいます。

ある時、薬局に処方箋をもっていくと、強制的にジェネリック医薬品を購入させられました。日本でもジェネリックの使用が推奨されるようになりましたが、フランスでは国民健康保険の莫大な赤字削減のために、特別に医師からのジェネリック医薬品振替不可の指示がない限り、オリジナル薬ではなくジェネリック医薬品の使用を強制されるようになりました。

ジェネリック医薬品とは、特許の期限が切れた医薬品を他メーカーが製造し安価で販売しているものです。成分は全く同じなので効き目も同様と考えられています。

 

しかしながら、それはあくまでも理論上の話で、後日私は軽く体調の異変を感じることになりました。

気のせいかもしれないとは思いましたが、医師にその事を告げると、私のように訴える患者は珍しくないとのことで

「AさんとBさんが同じ食材で料理しても違うものが出来上がることがあるように、いくら同じ成分を配合してもA社とB社の薬の作用が全く同じとは限らないのです」

との説明を受けました。

今後は処方箋に必ず代用不可と明示してくださるようになりました。

  

料理といえば、昔から煮物の調味料はサ・シ・ス・セ・ソと言われています。

美味しい味付けのコツは、最初に砂糖、次に塩、酢、醤油、最後に味噌を加えることです。これを間違えると分量は正しくても、思うような出来にならないのは周知の事実です。

医師のおっしゃることは、なるほどうなずけます。

ということは、化粧品の製造にも同様の事が言えるのかもしれません。

 

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いずれにせよ、ドゥ・ラ・メールのカウンターはパリの高級百貨店、ボンマルシェの化粧品売り場で堂々と中央に居座り続けているのですから、機能効果なのか心理効果なのかはともかくとして、女心を引き付けていることは間違いありません。

 

お気に入りのクリームを手にして、肌に塗布する時にミラクルを願う気持ち、いくつになってもこの夢見る心を持ち続けることがパリジェンヌのきれいの秘訣に違いありません。

 

 

¹Institut national de la consommation(国立消費研究所) が発行する雑誌「60millions de consommateurs」2013年10月号掲載

²Union fédérale des consommateurs(消費者連合会)が発行する雑誌 「Que Choisir」2014年6月号掲載