CHANELやChristian Dior のアイシャドウの新色。
日本人のセンスとは違う鮮やかな色や意外な色の組み合わせに魅かれて、つい購入してしまい、でも結局は2~3色しか使わなくて、残りの色は一度も塗ったことがない! そんな経験はありませんか?
フランス人と日本人では、瞳の色はさることながら、瞼の構造も異なり、アイメイクをする部分の広さが比べ物にならないのは見ての通りですね。
普段はナチュラルメイクのパリジェンヌも夜の外出時には、めいっぱい(目一杯)お化粧します。広い瞼に、骨格に合わせて陰影をつけ、目元を際立たせるように念入りにメイクをするので、4~5色のアイシャドウがバランスよくきちんと収まるのです。
お化粧映えして何とも羨ましい限りです。
私も見習わなくては!と思い、エステ学校時代は、授業で学んだパリジェンヌ風アイメイクを試行錯誤してみたものでした。
でも、日本人の瞼の二重部分は、目を開くと奥に入ってしまうため、自分の顔を鏡で見るとそれほどではないと思っても、他人から見ると瞼の動きによってはかなり濃くパンダのような目になっていました。
‟肌に馴染みやすいブラウンやベージュ系のナチュラルカラーを選んでグラデーションにするときれいに仕上がる”
日本の女性雑誌にはよくこのように書いてあります。
そんなことは百も承知していましたが、私のメイクボックスには24色のアイシャドウに加えて、青、緑、紫、金色まで10色以上のペンシルやマスカラが揃っているのですから
当時まだ若かった私は、
“私もパリジェンヌみたいになれるかもしれない”
と勘違いをして、使い慣れた色味だけでなく、ブルーやパープルにも手を伸ばしてみたのです。
青い瞳に強いあこがれを抱いていた私は、少しでも近づきたいと思い、青いアイライナーとマスカラで目元を強調し、パリジェンヌを気取っていました。
何とも恥ずかしい思い出ですが…。
日に日にメイクはエスカレ-トしていき、私の顔は絵の具のパレットのように色とりどりになっていきました。
授業で習ったとおりに忠実に再現、色の配置は間違っていないはずなのに、悲しいことに塗れば塗るほど理想からは、かけ離れていきました。
どこがいけないのかしら?
答えは簡単!
どれだけ長くパリに暮らしていても、例えマドモアゼルと呼ばれるようになっても、外見がフランス人に近づくわけではないのです。
私はこれからもずっとずっと純日本人であることにはかわりないのです。
フランス人の真似をしてもパリジェンヌになれるわけではないのです。
そんなある時、ギメ国立東洋美術館の前を通りすぎました。
東洋の美術品ってどんなものが展示してあるのかしら?仏像?壺?浮世絵?
恐る恐る中に入ってみると、館内には日本、中国、インド、アフガニスタン、ベトナム、カンボジア、ネパール、チベットに至るまで膨大なコレクションが展示されている東洋芸術の殿堂だとわかりました。
実業家エミール・ギメが世界一周旅行の際に持ち帰った美術品をもとに宗教美術館を設立したのが始まり。西洋人の審美眼で選び抜かれた東洋の美を堪能することができました。
現地では今この時も紛争により貴重な文化遺産が破壊されている状況から鑑みるとこのコレクションは今後さらに東洋美術研究の重要な役割を果たすことになると予想される貴重な美術品の数々でした。
見学客がまばらで館内がしーんとしているため、
「この品のある佇まい、なんて美しいの、心が清らかになるわ」
熱心に仏像に見入っているマダムのため息が聞こえてきました。
私はなんだか自分の事のようにうれしく思いました。
日本から西洋の美(美容)を追いかけてきたにもかかわらず、思いがけずパリで仏像の穏やかな微笑みに出合い、私までもが一瞬にして東洋芸術の凛とした簡素な美しさに心を奪われてしまいました。
「そうだわ、私の目指すべき美はここにあふれている。フランス人の真似ごとをする必要なんてないわ」
日本人であることに誇りをもってパリで生きていこうと心に決める良いきっかけとなりました。
日仏友好160年を記念して、2018年から2019年にかけて
「ジャポニズム2018 響きあう魂」
日本文化と芸術の祭典がパリ並びにフランス各地で開催されました。
ギメ美術館では、「奈良 日本仏教の三宝展」と題して、奈良 興福寺の国宝金剛力士像2体と重要文化財地蔵菩薩立像1体の特別拝観が催されました。
そこで、久しぶりにギメ美術館に足を運びました。
これまでにも京都や奈良の神社仏閣は、修学旅行や、大人になってからも何度も訪れていますが、これらの国宝や重要文化財をこれほど間近にじっくりと見たことはありませんでした。正面のみならず、背後に回り込んで、金剛力士像の筋肉隆々の後ろ姿までしっかり眺めることができるように展示されていました。
実際には、私と同じくらいの大きさにもかかわらず、鍛え上げられた筋肉と首や腕に浮き出た血管や、こちらをじっと睨み付ける目つきの迫力は、見るものを圧倒していました。
地蔵菩薩立像は、その2体に守られるように中央に配置され、穏やかな慈悲深いお姿が一層際立っていました。
この展示室だけは、来場者が後を絶たず、フランス人の日本文化への関心の高さを実感しました。
パリジェンヌの大きな瞳や長い睫毛、彫の深い華やかな顔立ちに比べると、私たち日本人の顔は、平面的で表情の変化に乏しく地味ですね。
しかしながらパリでは、日本女性の美しさへの賞賛の声を耳にすることも少なくありません。
なぜでしょうか?
観音様のお顔を拝みながら、その答えがわかりました。
凛とした切れ長の瞳、控えめな顔立ちに代表される東洋の美をパリで再発見することとなりました。
ギメ東洋美術館
Musée national des Arts asiatiques - Guimet
6 Place d'Iéna 75116 Paris