千代に八千代にパリジェンヌのように美しく

パリのエステシャンがあなたに伝えたい、年を重ねても美しいパリジェンヌのきれいの秘訣

鏡よ鏡よ、鏡さん、世界で一番美しいのは誰?

パリで働き始めたころ、フランス語を正しく話すために、発音矯正士について訓練をしました。

たとえばRの発音の場合、舌の先を歯の裏側にくっつけた状態でのどを震わせながら発音します。

先生の手書きのイラストに従い、目の前に置かれた鏡に向かって、自分の口許の動きをよく見ながら、何度も何度もRの入った単語の発音を繰り返しました。

 

自宅でもレッスンの録音を聴きながら同様に復習を続けました。次第に、鏡に映った自分とずっと向かい合っているのが苦痛になってきました。

先生の教えに従って、口を大きく開いたり、左右に思いっきり引っ張ったり、上の歯で下唇を軽く噛んだまま発音しながら、

「フランス語を話すときの私の顔ってなんて醜いのかしら?」

と鏡の向こうの自分に幻滅しながらも、何度も何度も辛抱強く繰り返しました。

 

 

確かに、フランス人は唇を閉じたり開いたり、上下左右に忙しく動かしながら、表情豊かに小さな顔をくちゃくちゃにしながらおしゃべりしています。

それだから目元や口元に小じわが増えるのも納得です。

 

この先フランス語を上達するにつれて、私の顔もどんどん崩れていくに違いないと先行きが思いやられました。

そのうえ、鏡に映った自分の顔のそばかすがやけに目につくようになり、左の頬にうっすらしみが浮き出ているのも発見してしまいまいました。

 

フランス人は瞳の色が青や緑、グレ-や薄茶色で、日本人よりも色素が薄いために瞳が光を通しやすく、眩しさを感じやすいために、フランスでは室内の照明は控えめになっています。

おそらくそれだけでなく、カップルが耳元でロマンチックな言葉をささやき合うためでもあるでしょうが。

 

そのせいで私は気づかなかったのでしょうが、発音の訓練のためにずっと鏡の前で自分の顔をじっくり眺めていると、どんどんと欠点が目につき始めました。

これまでに受けたフランス語レッスンの中でも一番つらい経験でした。

(当時はまだ、私の視力も良かったので……。)

 

鏡って残酷です。

でも女性にとっては必需品ですよね。

 

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さて、前置きが長くなりましたが、ただいまフランスは、夏のヴァカンス真っ最中。

ギリシャで1か月のヴァカンスを過ごされた顧客様が、サロンに駆け込んでいらっしゃいました。

「ホテルのバスルームに拡大鏡があって、それで自分の顔を見たらショックだったのよ。毎日ビーチに行くために、紫外線防止用のクリ-ムをしっかり塗って肌を保護していたせいもあるのだけど、毛穴に汚れが詰まってまっ黒なのよ。自分の肌がこんなに汚れているなんて、恥ずかしくてパリの街を歩けないと思って、ギリシャから電話して予約を入れたのよ。

しっかりケアお願いね」

 

7倍? 10倍? 

いきなり最初から、かなり倍率の高い拡大鏡をご覧になったようです。

見慣れていないと衝撃が大きいのはよくわかります。

 

この拡大鏡、確かに女性の敵でもあり味方でもあります。

 

皆さんは、もうお使いになってますか?

 

私は、学校の視力検査では、毎回一番下まで全部はっきりと見えるほど、視力が良かった分、老眼になるのが早かったので、アイメイクには、拡大鏡は欠かせません。

10年以上前から使っています。

 

老眼鏡かけたままでは、お化粧できませんからね。

 

若いころは、厚塗りのファンデ-ションがムラになっていたり、睫毛の生え際からかなりずれたところにアイラインを引いていたり、口紅がはみ出している年配の女性を見かけると、

 

「こんなにいい加減なメイクで人前に出て恥ずかしくないのかしら?」

「もう外見なんて、どうでもいいのかしら?」

 

などと失礼なことを思っていたものでしたが、私も年齢をかさねるにつれ、そうなってしまう理由がわかるようになりました。

決して手を抜いているわけではないのです。

視力が衰えてくると、自分の顔もメイクの仕上がりも細部まではよく見えないのです。

 

そう気づいて以来、私は拡大鏡のお世話になっています。

最初は、3倍から使い始めたのですが、数年前にそれでは物足りなくなって、5倍、7倍と迷った挙句、思い切って10倍を購入しました。

 

これが不幸の始まり始まり……。

 

バスルームの照明の下で鏡に映った自分の顔を見た時のショックだったこと!

私は、年齢相応の皺やシミは仕方ないと覚悟していますが、小鼻の周りに密集した産毛やほくろに生えた黒い毛、鼻毛1本1本までしっかりと見えました。

小鼻の横を親指と人差し指でつまむと、白い皮脂が押し出されてきました。

日頃からきちんと洗顔をしているにもかかわらず、なんて恥ずかしいことでしょうか!

そればかりか頬にも長い黒い毛が何本も伸びていました。

眉毛からもはみ出した毛が!

それらを毛抜きで引き抜いていると、あっという間に1時間が経過していました。

 

これらはすべて10倍拡大鏡のせい!

誰にもこんな風には見えないから大丈夫!

と気を取り直しました。

 

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年齢を重ねた自分と向き合うのは勇気のいることです。

現実はなんて残酷なのでしょう。

 

しかし、10倍とまではいかなくても、5~7倍くらいの拡大鏡を使って身だしなみを整えるようにすれば、何歳になっても十分に綺麗でいられます。

ファンデーションの厚塗りやムラがなくなり、これまでよりも洗練されたアイメイクができ、口紅を塗った口元もきりりと引き締まり、上質のメイクができるようになるはずです。

 

ところで、私のアパートのエレベーター前は、一面鏡張りになっているのですが、この鏡は、うれしいことにブティックの試着室にあるような、スタイルをよく見せてくれる鏡なのです。

毎朝、出勤前に目にする自分の姿が美しく見えるのはとっても気分のいいものです。

 

お化粧用には拡大鏡を使用して現実を直視する一方で、自惚れさせてくれる全身が映る姿見も併せ持つことをお勧めします。

不思議なことに、外見に少し自信が持てると、自然と背筋が伸びて、まっすぐ前を向いて颯爽と歩けるようになるものです。

鏡を自分の味方につけて、気分よく年齢を重ねていきましょう。

ぜひ、お試しください。

 

鏡よ鏡よ、鏡さん、世界で一番美しいのは誰?

Miroir, mon beau miroir, dis-moi qui est la plus belle ?

 

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民衆を率いる自由の女神 前進あるのみ!

 

私は大学生の頃、マリー・ローランサンの描く、パリの女性たちに憧れていました。

当時、蓼科高原マリー・ローランサン美術館*で目にしたシフォンのドレスをふんわりと身にまとい、つま先で軽やかに飛び跳ねているような洗練された女性たち。

 

淡いグレ-とバラ色の組み合わせがこんなにも上品でお洒落だと教えてくれたのは、彼女の作品でした。

時には優しく微笑み、時には物憂げな表情を浮かべるパリジェンヌたち。

それ以来、私もいつかこのような気品にあふれた女性になりたいという思いを抱き続けてきました。

 

ところが、私の予想に反してこちらで彼女の作品を目にすることはあまりありません。故郷では、あまり評価されていないようです。

 

2014年にパリのマルモッタン美術館で開催された、フランスで初めてのマリー・ローランサン回顧展に行くと、ほとんどの作品は蓼科高原ですでに目にしたものでした。

 

同様に、こちらに住むようになってから、私が長年憧れ続けたあの女性像は、実際のパリジェンヌとは似つかないという事もわかってきました。

 

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この写真は、病院で無料配布されている、女性癌患者向けの雑誌「ローズマガジン」の表紙です。

 

乳癌手術の傷痕の残っている上半身裸の女性。

右乳房切除したバストを露わにし、自由、平等、博愛を象徴する三色旗を握りしめた右手を高く掲げているこの女性の力強い美しさに、私は一瞬にして目が釘づけになりました。

 

タイトルは、「がんとの闘い! 革命! 前進あるのみ!」

 

凛とした横顔、左手で銃をつかみ、右手で三色旗を掲げて民衆を先導する姿。

オリジナル作品は、ルーブル美術館に展示されている、「民衆を率いる自由の女神」です。

復古王政の打倒、言論の自由を求めて、学生や労働者中心のパリの民衆が蜂起した1830年7月の市民革命を描いています。

 

この表紙のモデルを引き受けた 女優のサンドリン・ララさんは、これまでのキャリアの中では、ヌードになる仕事は引き受けたことがありませんでした。

 

「癌の手術と治療で疲れ果ててしまって、もうこれ以上自分の体に何もしたくないと、乳房再形成を拒否しました。

そのような選択をする女性もいるのだという事を世間にわかってほしい。

私は自分のありのままの姿を受け入れて今後の人生を歩んでいくと決めたのです。

この作品は 私の自由、アマゾーン*のようにたくましく生きていくと決めた私の選択、そして、すべてのがん患者の闘病を表現しています。強い象徴なのです。」

とインタビュ-に答えています。

すべての女性がん患者へエ-ルを贈っているのです。

*アマゾーンとは、ギリシャ神話に登場する女性だけの戦闘集団、アマゾン族。種族継承のために他国の男性との子供を出産するが、女児のみ育てる。又、彼女たちは、授乳のために左乳房は残していたが、弓などの武器の使用時に邪魔になる右乳房は取り除いたといわれている。

 

 

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私たち女性は、思春期の頃からバストの悩みは尽きませんね。大きい女性は大きいなりに、小さい女性は小さいなりに、乳房の形や乳首の色に至るまで、それぞれがコンプレックスを抱えています。

女性自身が乳房は女性の魅力の一部であると意識しているからにほかありません。

乳癌治療のためとはいえ、自分の体の一部を切除された喪失感は、計り知れないものがあるでしょう。

ましてや、その姿を覆い隠さず、ありのままの姿を人目にさらすことを厭わない潔さに私は心を打たれます。

そして何よりも、この作品中の彼女のカッコイイ美しさにすべての癌患者は勇気づけられるのではないでしょうか?

 

この過去を振り返らない、いつも前を向いて進んでいく姿勢が、パリジェンヌが魅力的な理由の一つに違いありません。

 

私たちの人生も、前進あるのみです。

 

 

* 蓼科高原のマリ-・ロ-ランサン美術館は、2011年に閉館後、2017年7月よりホテル ニュ-オ-タニ内にて再開されました。

パリで話題の「ミルフィーユ美容法」

パリで話題の「ミルフィーユ美容法」

 

ミルフィーユは私の大好物。

サクサクのパイと濃厚なバニラクリームをほおばる瞬間のこの幸せな気分は、きっと私をきれいにしてくれるに違いありません。 

でも、いくら美容のためとはいえ、クリームがたっぷりのったパイを1枚1枚顔に張り付けてパックをするのが、今パリで流行りの美容法!!!なんてことではありません。

あしからずご了承ください。

 

本題に入る前に、ちょっと話は横にそれますが、パリに旅行された方なら、街のあちこちで人目もはばからず男女が抱き合ってキスしているのを目にされたことがあるでしょう。

 

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 Le baiser de l'Hotel de ville    Robert DOISNEAU

 

恋人同士だけでなく、家族や友人、職場の同僚との挨拶に、口づけではありませんが、2回、3回、人によっては4回、頬と頬を合わせてキスするのがこちらの習慣です。

頬にとはいえ、中にはねっとりと唇を押しつける男性もいるので、私はいまだにこの習慣はあまり好きではありません。べっとり唾をつけられることもあるのですよ!

「郷に入っては郷に従え」と自分に言い聞かせ、仕方なく従っていますが……。

 

てかてか脂ぎった肌やカサカサに乾燥した肌、不衛生そうなくすんだ肌…、そんな肌と接触するのを想像してみてください。

 

男性だって、ファンデーションでこってり塗り固められた顔にキスするなんてきっと避けたいことでしょう。

 

逆に、女性が赤ちゃんのすべすべ肌につい指先で触れたり頬ずりしたくなるのと同様に、女性の滑らかな肌に男性も触れたくなるものではないでしょうか?

 

結婚するカップルの2組に1組が離婚するパリでは、年齢に関係なく、おそらく未婚、既婚にも関係なく、男女は常に出会いのチャンスを求めています。挨拶とはいえ、キスの際に、お互いの肌年齢や肌の相性を探っているに違いないと私は思っています。

気が合うことを「肌が合う」というように、初対面の男女は、この人とはうまくいくのかどうか、挨拶のキスから窺っているのです。

 

そんなパリジェンヌが肌年齢を若く保つことに関心がないはずがありませんよね。

前置きが長きなりましたが、というわけで、数年前から注目されているのが「ミルフィーユ美容法」なのです。

 

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ミル :1000の、たくさんの  フィーユ : 葉、紙片、ごく薄い板

お菓子のミルフィーユのパイ生地は、小麦粉生地にバターを乗せ何回も何回も折りたたむことによって層がまし、パリパリの食感が得られることからそう呼ばれるようになったといわれています。レストランでは、薄切りの肉や魚、野菜や果物を何層にも重ねた料理をミルフィーユ仕立てと呼んでいます。また、フランスでは食べ物のみに限らず、何重にも積み重なった層状構造のメタファーにもミルフィーユ」という表現が使われます。

 

パリジェンヌの毎日の肌のお手入れはとてもシンプル。

クレンジング用乳液やローションでお化粧や肌の汚れをふき取ってからクリームを塗っておしまいです。そのほかには、年に数回プロのエステティシャンの手に委ねて、ディープクレンジングや必要に応じた特別ケアを受けるだけ。

 

それに対して私たち日本人女性は、ダブルクレンジングから始まり、毎日5~6種類の化粧品を使用して、美肌を保つために日々の努力を怠りません。

日本女性の肌が年齢を重ねてもきれいなのは当然ですよね。

こちらでは「陶器のようななめらかな肌」と褒めたたえられています。

 

日本女性のような肌に憧れて、サロンに足を運んでくださるお客様に、私は日本流のスキンケアをアドバイスしていますが、ずらっと並べられた数々の基礎化粧品を目にすると、

「とてもこんな面倒なこと毎日続けられない!」

とパリジェンヌは逃げ腰になってしまいます。

 

きちんとお手入れをすれば、肌はどんどんきれいになるのに、最初のうちは納得してもらえなくて残念でたまりませんでした。

でもくじけるわけにはいきません。

実際に体験して、効果を目にすればわかってもらえるはずです。

そこで、ビューティセミナーを開催して、手とり足とり日本流のスキンケアを伝授することにしました。

 

 

「日本へようこそ」おもてなしの心を込めて、あらかじめ温めておいたおしぼりをお出しするところから始めます。

集まったのは20代から50代までのパリジェンヌ15名、日本流スキンケア初体験に興味津々。

まずはクレンジング&ウォッシングから取りかかります。

クレンジングは、ファンデーションやチーク、アイシャドーやマスカラ等のお化粧をしっかりと落とすこと。洗顔は、汗や皮脂による汚れや古い角質をやさしく取り除くことでそれぞれ役割が異なります。私たちには当たり前のこのダブルクレンジングをしっかり理解してもらわなくては、日本流ケアは始まりません。お肌の表面に汚れが残ったままでは、どんなに上等なクリームを塗っても効果なんて得られないのですからね。

 

いまだに継承されているフランスの伝統的な美容法では水を使用しません。

空気が乾燥しているうえに、カルキ成分の多いフランスの硬水で顔を洗うと、さらに肌を乾燥させることから、

洗顔なんてもってのほか!」

と先祖代々受け継がれているのです。

けれども近年は、日本の化粧品ブランドの推奨するダブルクレンジングも徐々に定着しつつあり、フランスでも脂性肌向けにムース洗顔料が商品化されています。

 

何を隠そう私自身も、名門エリゼマルブフエステ学校でしっかり学んだフランスの流儀にならって、洗顔なしの美容法を実践してみた経験があります。もともと乾燥肌の私には、この方が適してるかもしれないと半信半疑で試してみました。ニキビができるとか、肌が脂っぽくなるというトラブルはありませんでしたが、一か月以上続けるうちに肌の滑らかさがなくなり、手触りがざらついてきたのを感じて、結局元に戻しました。

暖房の影響で室内の乾燥が激しい冬場に一時的に取り入れるには効果があるかもしれませんが、

「でも、やっぱり顔も洗いたい!」

 今では「日本流ダブルクレンジングは美肌つくりには欠かせない」と自信をもってお勧めできるだけに、顧客様への説明にも力が入ります。

 

洗顔の話を始めると、パリジェンヌは、洗顔料を泡立てずに少量のぬるま湯で溶いて乳液状にして使うと思っていることに驚かされました。せっかく、肌に摩擦の負担がかからないようにと、きめ細かな泡が立つように作られているのに残念なことですが、乳液でクレンジングする習慣があるから仕方ないのでしょうね。

フランスの硬水では少し泡立ちが悪いのもありますが、それだけではなく、石鹸のような固形や液体ならともかく、チューブ入りのクリーム状の洗顔料が泡立つということを想像できないからに違いありません。まず目の前で、泡立てのデモンストレーションをしてみせます。

 

両手をぬるま湯で濡らしてから少量の洗顔クリームを手の平のくぼみにおいて、ぬるま湯を加えながら素早く泡立てます。ほんの1cmほどのクリームが、見る見るうちに手のひらいっぱいのムースに変化します。

「ワオ!」

「手品みたいね!」

歓声が上がる。

「ほらね、こんな風にホイップクリームみたいになるんですよ。ふわふわだから手に取ってみてください。でもお砂糖入ってないから食べないでね」

と一人ひとりに見せてまわる。

 

「こんなムースで顔を洗ったら気持ちよさそうでしょう。さっそく皆で試してみましょう」

 

簡単な作業だけれど、慣れてないと一苦労。クリームが多すぎても水分が多すぎてもホイップクリームみたいには膨らみません。乳液状になってしまうのです。そんな不器用なパリジェンヌのために、泡立てネットも用意してあります。これさえあればだれでも簡単に泡立てることができます。

 

さっそく洗顔

「泡がとてもやわらかくて気持ちいいわ」

「水で洗い流すとさっぱりするわね」

「肌がつるつるになったわ」

「全然突っ張らないわね」

期待していたとおりの反応で出だしから好調。

 

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「次は、水のカルキ成分が肌に残らないように、コットンに保湿化粧水を含ませて軽くタッピングしてください」

 

私は洗顔後、美容液やクリームでしっかり保湿するから化粧水も購入するのはもったいないと節約していたことがあります。けれども化粧水で肌の表面を整えてからの方が断然次の化粧品の効果があることを実感してからは、今では保湿化粧水は欠かせません。フランスには、お化粧落としや皮脂の汚れをふき取るための化粧水は数々ありますが、保湿化粧水は見当たりません。これも日本との違いです。

 

引き続きマッサージの説明を始めます。

慣れてしまえば1セットほんの5分くらいのセルフマッサージですが、初めてだと難しく感じるかもしれないので、皆が覚えられるようにできるだけ簡単に顎先から上へ上へと額まで美肌つくりのこつを指導していきます。クライマックスは、眼精疲労やイライラした時に気分を鎮める効果のある目の周囲の3点のツボ押し。同僚エステティシャンと手分けしてまずは参加者全員にツボ押しを体験してもらい、ツボの位置と指圧をしっかりと記憶してもらいます。

 

「それでは全員一緒に、試してみましょう。目を閉じてください。指の腹を使ってやさしくアン、ドゥ、トロワで徐々に力を入れながら指圧を加えていきます。爪で肌を傷付けないように気を付けてください。1点目は眉頭の内端にあるくぼみです。軽く押すだけで大丈夫です。今度は1.2.3で徐々に力を抜いてみましょう。2点目は眉の中ほどにある小さなくぼみです。1.2.3で押して、1.2.3で離してください。3点目は眉尻のすぐ横にあるツボです。1.2.3.1.2.3。ゆっくり目を開いてください。先ほどよりも視界が明るく感じませんか? 仕事中にイライラした時や、パソコンの使用中に目の疲れを感じたときに、ぜひ試してください」

 

「なんだかポカポカして、いい気持ち」

「あ~とってもZENだわ。明日からさっそく試してみるわ」

 

ZENとは、日本の‟禅”に由来し「心が穏やかなさま」を意味します。

ティッシュペーパーでマッサージクリームをふき取ってから、もう一度化粧水でタッピングして肌のほてりを鎮めます。美容液、アイクリームそして保湿クリームを塗布して終了。

 

「お肌に触ってみてください。感触はどうですか」

「やわらかい」

「滑らかだわ」

「くすみがとれて若返ったわ」

 

「いいことばかりでしょう。ぜひ明日からも続けてくださいね」

 

「でも毎日マッサージはできないわ」

 

「難しく考えなくても大丈夫ですよ。皆さん毎晩クリームは付けるでしょう。マッサージの手順でクリームを塗布すればいいだけですよ」

 

「そうね」

「それならできそうだわ」

 

ミルフィーユ美容法」とは、この日本では基本的なフェイシャルケアのことを、ビューティセミナーに参加した人気ブロガーのソニアさんが、肌の上に何層にも化粧品を積み重ねることをミルフィーユに例えて、名付けたのが始まりです。ミルフィーユはフランス菓子だけれどミルフィーユ美容法は日本製なのです。

 

スポンジケーキにクリームやジャムを挟んで何層にも重ねた洋菓子、レイヤーケーキから、日本流美容ケアはレイヤーリングとも呼ばれています。

 

どちらの名称も、パリの美容フリークの間では、すっかりおなじみになりました。

ダブルクレンジングの習慣は、素肌美を手に入れるためには欠かせないとの評判を得て、顧客様の年齢に関係なく、洗顔ムースの販売は増大しました。

伝統的な美容法に固執するのではなく、新しいものも取り入れる好奇心を持ち続けることが、きれいに年齢を重ねる秘訣なのですね。

 

ミルフィーユ美容法」、パリジェンヌを納得させた日本の美肌習慣を、私たちも続けていきましょう。

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パリジェンヌも納得 睫毛用美容液 リヴァイタラッシュ アドヴァンス  

パリジェンヌも納得 睫毛用美容液 リヴァイタラッシュ アドヴァン  

 

ある日、昼食休憩の後、お化粧直しをするためにコンパクトをのぞくと、右目の目頭に目ヤニがたまっていることに気が付きました。

今朝、きちんと洗顔したのに、目ヤニがついたままだったなんて……。

お客様に見られていたかと思うと恥ずかしくなってしまいました。

 

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翌日もその翌日も相変わらず目ヤニがたまっています。

と、そのうちに瞼が少し腫れ、ヒリヒリするようになり、目が充血してきました。

ついには、朝起きると、瞼が目ヤニで覆われてひっついています。

子供の頃にかかった結膜炎かもしれないと思い、早速かかりつけの眼科医に予約をとりました。

「救急で!」とお願いしたにもかかわらず4日後の金曜日まで待たなくてはなりません。

その間に、瞼の奥、というか裏側の異物感が気になりだし、瞼を上から触ってみると、細長い塊があるのがわかるようになってきました。

 

めばちこかもしれない」

 

と思いながら診察の日を迎えました。ドクターAは、瞼を裏返して中を見ると

「黒い円筒状のものがあるわ。こんなの見たことないから私ではわからないわ。瞼の裏側に毛が生えているようです。もっと瞼に詳しいドクター紹介しますね」

 

黒い円筒状のもの?と聞いて思い当たることがありました。

過去に2度、目が痛いと思っていたら、睫毛の塊が瞼の奥から出てきたことがあったのです。

抜けた睫毛7~8本が目ヤニで固められて、まるで針のようになっていました。

 

「ドクター、それはきっと抜けた睫毛の塊ですから、ピンセットで取り除いてください」

 

過去のいきさつを説明したうえで、私はお願いしました。

 

「睫毛というのは、外向きに生えているのですから、瞼の外側に抜けていくものですよ。瞼の中に入るなんてあり得ません。ブーダン ノワ-ル(どす黒い色をした豚の血と脂身の腸詰めのこと)が瞼の裏にあるみたいなのです。それを取り除いても、その下に毛が生えているかもしれません。専門家のところに行って治療してください」

 

と、紹介状を渡され、とりあえず抗炎症剤の目薬を処方されました。

 

 

ベテランの眼科医の当惑した様子に、私はあきれてしまいました。

瞼の裏側に、毛が生えているなんて、そんなはずないでしょう。

 

 

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確かに、フランス人の目元は彫が深くて、その上、睫毛は長くて、ビューラーなんて使わなくてもくるんとカールしているのですから、抜け落ちた睫毛が瞼の中に入ってしまうなんて考えられないのかもしれません。

でも私たち日本人の睫毛は、短くてまっすぐなので、目の中に入ることって、ありますよね? 

ドクター、私の顔見て想像つかないのかしら? と思いながらその眼科を後にしました。

 

 

さて、ここからが大変。

紹介された専門医の予約は1か月以上先。

目薬の効果で、炎症は治まり痛みもひいて、一安心したのもつかの間、1か月もすると、例の黒い塊が徐々に大きくなってきたのが瞼の上からもわかるようになり、目はまた充血してきました。

目ヤニのせいで、日に4~5回、洗眼していても、夕方になるとうっすら幕がかかったように目の前がかすんでしまいます。

針のような睫毛の塊が瞼の裏から突きでてくるのでは……とか、ひょっとして悪性の腫瘍かもしれないとだんだん心配になってきました。

最後の1週間は、診察の日が待ち遠しくて仕方ありませんでした。

 

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当日、緊張しながら初めて行く眼科の扉を叩き、神経質そうであまり感じのよくない年配のドクターBに対面しました。

瞼を裏返して、開口一番

 

「二重にするために整形しましたね」

 

アジア人種の目は、皆が一重で切れ長と思いこんでいるのでしょうか?

「いいえしてません」

「瞼の裏に糸のようなものが見えます。整形していないのなら、これは糸ではありませんね」

点眼薬の麻酔を注入すると、ピンセットで例の黒い塊を取り出してくれました。

 

「睫毛を抜いたり、切ったりしてませんか? それが瞼の中に入り込んでしまったようです」

 

50歳を超えてから、睫毛がだんだん細く短くなり、本数も減り、目元が淋しくなってきたと気にしているのに、誰が好き好んで、切ったり抜いたりするものですか? 

私の睫毛は、あなた方フランス人のとは違うんですよ!

と言ってやりたい気分でした。

 

何はともあれ、愛想が悪いとはいえ、ドクターBは、ほんの数分でこの1か月以上続いた悩みの種から私を解放してくれました。

10日間は、抗生物質の点眼薬と塗り薬(目の中に塗るんですよ)の治療は続きますが、翌日から目ヤニは全く気にならなくなりました。

一件落着。

 

 

自分とフランス人の睫毛の違いを改めて認識させられた出来事でした。

 

 

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病院での癌患者を対象にしたビューティレッスンでは、必ず、睫毛美容液、リヴァイタラッシュの話題が出ます。抗がん剤医療の後遺症で、頭髪だけでなく全身の脱毛を経験した、もしくはこれから経験するかもしれない女性たちの間で、少しでも早く元の睫毛を取り戻すことができる、睫毛美容液は関心の的なのです。

(美容の観点からだけでなく、睫毛は目に埃が入るのを防ぐ重要な役目があるのです。)

 

フランス製の睫毛美容液もありますが、一番人気があるのは、アメリカ製のこのリヴァイタラッシュ。

患者さんどうしの会話の中で、

 

「とっても効果があるのよ」

「すぐにふさふさの睫毛を取り戻せるのよ」

と毎回繰り返されるのを耳にしていましたが、私には必要ないと思っていました。

 

ところが、ここ最近、マスカラを塗っても目元がパッチリしなくなってきました。

最初は、マスカラのせいだと思い、評判のいいものに変えましたが、あまり効果が感じられず、また別のマスカラを試してもすぐに睫毛のカールが落ちてしまいます。

ついにマスカラのせいではなく、私の睫毛が老化してきたことに気付きました。

お肌や髪の毛同様に、睫毛もケアが必要なのですね。

 

そこで、リヴァイタラッシュの出番です。

ただし、日本人の私の睫毛にも同様の効果がでるのかどうかは、確信がありませんでしたが……。

ボンマルシェには、リヴァイタラッシュとフランス製のタリカのものが同じ棚に陳列されていました。

タリカの目元ケア用の製品は、ドラッグストアでも販売されているので、よく見かけます。

お値段も少しお手頃。

どちらにしようか迷っていると、偶然、アジア系の販売員が声をかけてくれました。

 

「リヴァイタラッシュは、すごい効き目よ。あなたと同じようにアジア系の私の友人たちも試しているけど、つけ睫毛したみたいになるのよ。私も今月の給与が出たら買うつもりなの」

 

「タリカにしようか迷っているのだけど……」

 

「タリカも悪くないわよ。でも朝晩2回塗らなくてはいけないの。その点、リヴァイタラッシュは、就寝前に塗るだけでいいのよ」

 

彼女の友人たちの睫毛にも効果があるのなら、きっと私にも効くはず!思い切って購入しました。

3.5ml、半年分が118€(約1万5千円)。

毎晩、リキッドアイライナーのような筆で、睫毛の根元にさっと塗るだけの簡単なお手入れ。

 

果報は寝て待て!のことわざ通り、あとは眠るだけ。

 

一晩で効果が出るとは思いませんが、結果が待ち遠しくて仕方がありません。

一週間経過、まだ変化は見られません。

とりあえず、1本使い切るまでは様子を見るつもりで、気長に続けるつもりでした。

一か月くらいしてから、マスカラのノリがよくなったことに気付きました。

私の睫毛が、つけ睫毛ほどにふさふさになったわけではありませんが、マスカラを塗ると睫毛がどんどん長くなっていくのです。

老化した細い睫毛の一本一本にハリが戻り、ビューラーを使用するとくるんと元気よく上向きにカールして、マスカラをしっかり捕えることができるようになってきたのです。

フランス人形のような目元になれるとは思いませんが、リヴァイタラッシュの効果に満足しています。

 

 

年齢とともに目ヂカラが衰えてくるのは仕方のないこと。

でも、解決方法は簡単です。

皆さんもぜひお試しください。

私は、里帰りの折りには、日本製の睫毛美容液をぜひ試してみたいと思っています。

 

 

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匂いも魅力のうち、香水つけない女に未来はない

 

匂いも魅力のうち、香水つけない女に未来はない

 

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私は結婚当初、夫から洗濯し過ぎだといわれました。

 

「だって、枕カバーもシーツも、あなたの匂いがするのだもの。洗わなきゃいけないでしょ!」

「僕のものに僕の匂いがするのは当たり前だよ。臭いわけじゃないんだからそんなに洗わなくてもいいんだよ」

 

私は、清潔=無臭と考えていましたので、「僕の匂いがするのは当たり前」という、日仏の体臭に対する意識の違いを初めて知りました。

 

確かに、こちらで暮らすようになると、パリジェンヌは良くも悪くもそれぞれ匂いを放っていることに気付きます。

自宅アパルトマンのエレベーターでも、住人の体臭や香水の残り香が充満していることがあります。

エステティックサロンでも、施術のために、衣服を脱いでパレオに着替えていただくと体臭かぷーんと匂う女性もいらっしゃいます。

頭皮のマッサージをしながら、

「このお客様は何日くらいシャンプーをなさっていないのかしら?」

と思うこともしばしばあります。

 

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ところで、毎日シャンプーしてますか?

私は、パリに住む前は、入浴のたびに、ほとんど毎晩していました。

顔も体も毎日洗うのだから、髪も洗うのは当たり前の事でした。

 

どうせ又シャンプ-してもらうとわかっていても、美容師さんに汚れた髪を触らせるのは申し訳ないと思い、美容院に行く前日さえも自分で洗髪していました。

 

髪の毛には汚れがついたり、食事の匂いも移ってしまいますので、周囲の人に自分の生活臭や体臭を嗅がせるなんて、恥ずべきことで、社会人としてのマナー違反だと思っていたのです。

 

ところが、パリのエステティック専門学校では、洗髪は週に1、2回で十分。毎日行うと、頭皮を傷つけてしまい抜け毛の原因になると、学びました。

年配のマダムは、自宅では洗わずに、シャンプー&ブローだけのために、毎週行きつけの美容院に足を運ぶのだとか。

確かにパリにはいたるところに美容院が目につきます。

いくら乾燥した気候のパリでも、髪の匂いが気になるのは避けられません。

 

さらに、TVでは毎日、48時間清潔さが保てる制汗・デオドラント剤の宣伝が流されています。とっても効果がありそうなのは想像ができますが、でもどうして48時間も効果が長続きする必要があるのでしょうか?

蛇口をひねれば、すぐにお湯が出るこの時代に……。

毎朝シャワーを浴びれば、24時間の消臭効果があれば十分なはずですよね。

つまり、2日に一回しか体を洗わないことを想定していることになります。

髪の匂いばかりか、体臭もまき散らしているのです。

 

でもさすがに自分の体臭だけでは魅力に欠けるので、香水をシュッシュッ、シュッシュッ浴びて、体臭と混ざりあった個性的な芳香を漂わせているのです。

香水は、身だしなみに欠かすことができないのもわかります。

 

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ある日、一人の男性が、日本文化がお好きな奥様へのプレゼントに香水をお買い求めに来店されました。

爽やかなグリーンノートの香水を賦香紙(香水などをつけて嗅ぐために使う細長い紙のこと)に吹き付けて、お試しいただきました。

すると彼は、まるでワインのテイスティングでもするかのように、瞼を閉じて、その高い鼻すれすれに賦香紙をゆっくりと滑らせながら、香りを味わうように吸い込み、そして

「デリシュー」

と感想を述べられました。

フランス語でデリシューとは、すなわち英語のデリシャスの事。

食べ物が美味しい時のみならず、香りに魅了された時にも使うとは、初めて知りました。

パリ暮らしも長くなってきましたが、いまだにフランス語表現は学ぶことがたくさんあります。

 

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それにしても、フランス人は本当に香水が大好き!

 

« Une femme sans parfum est une femme sans avenir. »  Coco Chanel

香水をつけない女性に未来はない

これは、シャネルのセリフ。

香水付けないなんて、女失格!なのですね。

 

では、パリジェンヌは、いったい何歳くらいから香水に目覚めるのでしょうか?

 

エステティック専門学校の販売の授業では、出産祝いに赤ちゃん用香水を贈ると学びました。

赤ちゃんの時から香水付けるの?と驚いたのを覚えています。

 

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通常、赤ちゃん向けフレグランスは、パルファンというよりは、ロー ド サントゥル(直訳:香りつきの水)と呼ばれアルコール分が入っていません。

生まれたばかりの赤ん坊のデリケートな肌に配慮して、肌に刺激のない原料のみを使用し、できる限りアレルギー反応をおこさないように工夫されています。

出産祝いやクリスマスプレゼントにフレグランスを贈る人は少なくなく、フランスの赤ちゃん、子供向け香水売上高は、1100万ユーロ約14億円(2011年)にも上ります。

 

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フランスで最初にこの市場を開拓したのは、Christian Dior

1970年に、 子供向けにアルコールをわずかしか含まないオーデコロンBabyDiorを発売しました。しかしながら時期尚早で、成功を収めることはできませんでした。

それから十数年以上経て、1986年に子供服ブランドのBonpoint が Eau de Bonpoint を発売。

1987年に同じく子供服ブランドTartine et Chocolat がPtisenbonを発売し、これは今では、子供向けフレグランスとしては世界1の売上を誇っています。

プチサンボンなら日本でも、若い女性向けの爽やかな香りとして根強い人気があるのでおなじみですね。

その後、1994年にJean-Paul Guerlain も Petit Guerlainを生み出しましたが、残念ながら今は製造していません。

Bulgari のPetit et MamanBurberryのBaby Touch、 L'occitane のEau maman bebeは親子で同じ香りを共有できるように作られています。そのほかには、天然植物エキスを使用したヘアケアで有名なブランドKlorane のEau de bebeがあります。Kloraneは、ベビーケア商品も販売しているので、赤ちゃんの肌にやさしいブランドとしてのイメージも手伝って、Eau de bebeは根強い人気があります。

香水瓶のふたがぬいぐるみの顔になっているKalooのParfumもとてもかわいいです。

毎年クリスマスが近づくと、各ブランドからプレゼントにぴったりのぬいぐるみとセットになった子供用クリスマスコフレが売り出され販売を促進しています。

 

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フランスの出生率は2.08(2015年)でアイルランドと並んでヨーロッパでトップのため、パリには思わず手にとってみたくなるようなかわいいベビー用品やおもちゃが溢れています。

生まれたばかりの時からセンスのいい小物に包まれ、香りをたしなみ、何年もかけてお洒落の作法を身につけて……そしてパリジェンヌが出来上がるのです。

パリジェンヌは一日にしてならず。

 

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「ある時、映画館で隣に座ったマダムの香りがとても懐かしくて、30年以上も前の自分の子供のころを思い出したんだ。その女性の横顔にはもう見覚えはなかったのだけれど、それでも匂いで小学校の時の担任の先生だとすぐにわかったのさ」

友人が感動的な再会の話をしてくれたことを思い出します。

 

毎年(2012年度は1200~1300)数え切れないほどの新しい香水が発売されるにもかかわらず、同じ香りを身にまとい続け、30年以上も生徒の記憶の中にしっかりと存在し続けることができるなんて、さすがパリジェンヌ。

 

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« Le parfum est la forme la plus intense du souvenir. »   Jean-Paul GUERLAIN

香りほど思い出を強烈に記憶することができるものがあるだろうか。

これは、ジャン・ポール ゲラン氏の言葉。

 

私は、日本にいたころから、シャネルのアリュールを愛用していました。

香りが好きだったのはもちろんですが、いつかは、アリュールのある女性*になりたいとの願いからでもありました。

*アリュールとは、フランス語で振舞いに気品や威厳があること。

 

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ところが、夫と知り合った頃、

「アリュールつけてるんだね」

の一言で、つけるのをやめてしまいまいました。

前の彼女と同じ香水なんて、もうつける気がしませんよね。

その後は、ゲランのイディールを使っていますが、また新たな香水を探しているところです。

生涯使い続ける香りには、まだ巡り会えていません。

私の香水探しはこれからも続きます。

 

あなたも香りで誰かの記憶に残れるように、自分に相応しい香水選びをお楽しみください。

 

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ソシオエステティックとは?

Un défaut de l’âme ne peut se corriger sur le visage.

Mais un défaut du visage, si on le corrige, peut corriger une âme.             

Jean Cocteau

 

 心の傷は、顔にでてしまう。

けれども顔の傷は、それを修整してしまえば、心を治すことができる。

                       ジャン コクトー

 

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 フランスでは、病院や社会福祉施設高齢介護施設、そして刑務所で働くソシオエステティシャンと呼ばれる専門のエステティシャンがいます。

フランス語で「ソシオ」とは、「社会の、社会福祉の」という意味があります。

肉体的苦悩(病気・事故・外科手術・老化)や精神的苦悩(精神病・アルコール依存症・薬物依存症)、社会的苦悩(失業や貧困、社会からの孤立)を抱えた人々の心の支えになり力づけています。

通常この美容ケアは、看護、介護サービスの一環として無料で行われています。

 

 

公立病院の職務リストには、ソシオエステティシャンは、「社会生活になじめるように、自己イメージの再評価、アイデンティティーの再生を助長することを目的として、各個人に適したソシオエステティックケア、人間関係を促進するスキンシップ、入念な身体衛生ケア並びに外見のケアを行う」と定義づけられています。

 

朝起きて、着替えをして、身だしなみを整えることは、私達が社会生活を営むための習慣のひとつですが、長期入院中の場合はどうでしょうか。

顔色の悪さを気にしたり、髪の毛を整えたいと思っていてもなかなか思うようにはできません。特に女性は、そのままの姿でお見舞いに来てくださった方々に、面会するのもつらいものです。

入院前と比べ少しずつ悪化していく鏡の中の自分に落胆し、本来の自分自身の姿を失ってしまったような気がするかもしれません。

消毒液のにおいのする病院の中だけのモノトーンな日々の中で、次第に外の社会とのつながりが薄くなりがちで、疎外感や孤独感を感じることも少なくないでしょう。

そんな時、エステティシャンがほんのり心地よい化粧品の香りや、程よい刺激のマッサージとともに、外からの風を運んでいくことは、一時的とはいえ、病気を忘れさせてくれます。

 

ソシオエステティシャンは、美容面だけにとどまらず、身体的な心地よさ、精神的な安らぎをもたらします。

痛みや不快感、副作用を伴う日頃の治療とは異なり、また、看護スタッフとは全く違った角度からのアプローチをすることによって、日常の医療行為では行き届かない精神面でのケアを受け持つことでもあり、入院環境の改善、QOLの向上といった観点から、医療行為の補足的なものであると考えられています。

まさに、医療を社会福祉の視点から捕らえた仕事であると言えます。

 

病は、しばしば体だけでなく心も蝕んでしまうのですから、心のケアも必要なのです。ソシオエステティックによって、病院では失いがちな女性としての自覚を取り戻し、回復意欲を向上させる作用も期待できます。

治療は、医療の役割ですが、回復するためには、患者本人の治そうとする強い意志も必要なのです。

ソシオエステティックは、生と死の狭間にいる患者さんに病院の外の社会とのつながりを維持し、生きる気力を保ちつづけさせ、“生”の側につなぎとめておく、もしくは引き戻す作用があると考えられます。

 

又、事故などで顔や体に傷跡のある患者さんに、その傷跡を、メイクによってカムフラージュし、コンプレックスを和らげることは、外見上だけでなく、精神的にも傷つき閉ざされている心の窓を外の社会に向かって開く、社会復帰の手助けにもなります。

 

高齢者介護や痴呆老人の治療にも、ソシオエステティックは取り入れられています。

年齢を重ねるにつれ、誰もが手や顔にシミやしわが現れてきます。

他人には、見られたくない、覆い隠してしまいたいと思いがちです。

エステティシャンは、メイクやマニキュアで本来あるべき自分への愛情(ナルシズム)を蘇らせ、失ってしまった自信を取り戻すお手伝いをしています。

同様に、配偶者や友人との別離や、死への恐怖感から精神的に不安定になりがちなお年寄りに、やさしく話しかけてくれるソシオエステティシャンの存在は、心の支えとも言えるでしょう。

 

精神医療の現場でも、ソシオエステティシャンは、活躍しています。

精神科では、自分の肉体に無関心で、シャワーさえ浴びようとしない患者さんも珍しくありません。

顔や手のエステが、患者さんの衛生観念に変化をもたらすとも考えられます。

又、自己のイメージに対して、非常に低い評価をしている患者さんも多く、摂食障害の患者さんには、特にその傾向がみられます。

自分の外見に対するコンプレックスが引き金となって、拒食症、過食症を引き起こすこともあります。

このような場合、自分で自分の体を傷つけたり、バランスの悪いメイクをしがちです。エステティシャンがやさしく話しかけ、患者さんの体をいたわりながら、お肌のお手入れ、マッサージ、メイクの指導などのケアを行うことによって、患者さんの自己イメージのアップを図り、そのコンプレックスを和らげることも可能です。

自分に薄いベールをかけ、鏡の中に身だしなみの整ったいつもと少し違う姿を見つけることは、見失ってしまった自分自身を取り戻す良いきっかけになるでしょう。

 

たとえ、肉体的には健康であったとしても、貧困や、失業などの社会的な苦悩による精神的な苦痛は、徐々に外見や肉体を蝕んでいくとも考えられます。

本来の自分自身の姿を取り戻すことは、アイデンティティーを再認識することでもあり、将来に対する希望へとつながっていくでしょう。

 

世界保健機関によれば「健康とは、病気でないとか、虚弱でないという事だけではなく、肉体的にも、精神的にも、社会的にもすべてが満たされた状態にあること」と定義付けられています。

つまり、元気な体と幸せに満たされた心、そして安定した社会生活のバランスが取れた状態の事を意味しています。

私達から、このうち何か一つが欠けバランスを失うと、他の二つにまで悪影響を及ぼすことは、言うまでもありません。

ソシオエステティシャンは、高齢者や病人、社会的弱者が、この三つのバランスを取り戻す手助けをする役割を担っていると言えるでしょう。

「より美しくなる事」がエステティックの目的ですが、「一人一人が本来の自分自身の姿を取り戻す助けをする」「アイデンティティーの修復を促す」「元の生活に復帰できるように社会との懸け橋を担う」ことがソシオエステティシャンの役割であると考えています。

 

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ソシオエステティックの始まり

 

ヨーロッパにおける病院での美容ケアの導入は、1960年に始まりました。

1960年5月17日ロンドンのHalliwich病院で女性入院患者のために美容院とエステティックサロンを兼ねたビューティサロンが創設され「回復期における美容ケア(ヘア、フェイシャルケア、メイキャップ)が入院患者の気力を取り戻させるのに明らかな効果がある」と確信されて以来、アメリカやフランスでもエステティシャンに美容ケアを依頼する病院が出てくるようになりました。

病室まで赴きベッドに横になったままの患者にケアを施すこともあり、心身の緊張を緩和させ、心に平静をたらすことで著しい健康回復を促しました。

エステの前と後では鏡に映る自分の姿を目にした患者の様子に明らかな健康状態の改善が見られました。

 

フランスで最初のソシオエステティシャンは、Madame Jenny Lascar。

彼女は重い鬱病で入院している親友を見舞うたびに、エステやメイクで励まし続けたことがきっかけとなり、最初はボランティアで精神病院の患者に施術を始めました。

当時はエステルームもなく、開いているスペースの片隅で机を並べてシーツを敷いただけの簡素なベッドでの施術でしたが、それでも十分に効果がえられました。

医療現場で働くための専門教育を受けていないにもかかわらず精神病患者のケアに積極的に取り組んでいくことへの家族の心配をよそに、彼女は一歩一歩新たな道を切り開いていきました。

1966年、リオン市のVinatier精神病院の医長Berthier医師は、2年間に及ぶ美容ケア導入の経験から、「精神病院においてエステティシャンは、病気の治癒と社会復帰を促すという点で重要な役割を占めており、医療スタッフの一員と認められる」と断言しています。

そして1973年、Madame Jenny Lascarはリオン市Bron精神病院にフランスで最初のビューティサロンを開設しました。

 

私が受講したソシオエステティシャン養成講座コデスの創設者Madame Renee Rousiereも1966年トゥール市の精神病院でのボランティアに始まり、1970年には老人ホーム、1972年には女性刑務所にまで活動を広げました。

彼女はもともとはエステティックサロンを経営されていました。

その当時サロンを訪れる顧客は富裕層のマダムばかりでしたが、彼女たちが美容目的だけでなくストレスの緩和やリラクゼーションをも求めて来店することに気付き、エステティックの心理的癒し効果に着目されました。

そこで、入院患者や社会的に恵まれないつらい立場に置かれている女性の心の支えになろうというヒューマニズムの観点からソシオエステティックに取り組み始めました。

そして1979年エステティックを医療や社会福祉分野に適応させるための専門教育を行う目的で、トゥール大学病院の協力の下で、ソシオエステティシャン養成講座コデス₁を開講するに至りました。

エステティックは一部の裕福な人々のためだけではなく、すべての女性のためにある」という信念に基づき、ソシオエステティックの発展に尽力されました。

2000年12月には、ソシオエステティシャンが正式な職業として国家認定されました。2003年、 国の癌政策の中で、身体的、精神的そして社会的な面で患者のQOLをより高めるための補助的なケアとして、運動療法師や心理カウンセラー、栄養士と同様にソシオエステティシャンもリストに加えられました。

2012年には、公立病院における職務の一つとして承認されています。

 

₁CODES : Cours d’esthétique à option humanitaire et sociale

     (人道的、社会的意義に特化した美容講座の意)

参考:

「Cours Complets du Programme d’Études du C.A.P. d’Esthéticienne-Cosméticienne」H.Pierantoni著 Les Nouvelles Esthétiques出版 

ビデオ「Une goutte d’eau dans la mer」(1971年 )Institut national de l’audiovisuel

 

病気の時も女性のままで

私は2005年から、がん患者を対象に病院でビューティレッスンを展開しているボランティア団体Belle et Bien(きれいは気分がいいの意)に加入しています。

もともとはアメリカで癌の専門医が、ある患者が治療の副作用による外見の変化にショックを受け、病室から出ることさえ拒否するようになってしまったことに心を打たれ、化粧品工業会会長に依頼して化粧品の提供を受け、プロのメイキャップアーティストの手をかりて外見のケアを行ったのがそもそもの始まりです。

単なる見た目の変化にととまらず、患者さんの気分までよくなり数週間ぶりに笑顔を取り戻すまでに至りました。

これをきっかけにして “Look Good Feel Better”(きれいになると気分もよくなるの意)が、1989年にアメリカで誕生しました。

今では世界26か国に普及しています。

 

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フランス支部は2001年に設立され、美容企業連盟の後援と15の有名化粧品ブランドの協賛を得て、2016年現在27病院(うちパリ16か所)でビューティーレッスンが行われています。これまでに25万個の基礎化粧品やメイキャップの寄付を受け、2500回のビューティレッスンを開催し、2万人の女性が笑顔を取り戻しました。

 

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パリ15区にあるジョルジュポンピドー病院の正面受付でコーディネーターのソフィーと待ち合わせ。

5階、癌病棟の会議室を会場としてセッティングする。

通常、コーディネーター1名、エステティシャン2名の計3名一組で2時間余りのアトリエを司会進行する。参加者には、現在入院中の人もいれば、通院治療中、もしくはもうすでに病を克服した人まで、病状はさまざまだけれども全員癌の宣告を受けたという共通点がある。

 

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「ボンジュール」

 

時間が近づくにつれて一人二人と次々に患者さんが集まってきて、それぞれ自分の名前の席に着く。抗がん剤治療の副作用で頭髪が抜け落ち、かつらをかぶっている人もいれば、おしゃれにターバンを巻いている人、帽子をかぶっている人もいる。フランス人は髪の毛が細くて量も少ないので、黒髪ロングヘアーの私は、これまでにもフランス人からうらやましがられてきました。私は栗色や金髪の彼女たちの髪に憧れますが。

なので、治療の後遺症で頭髪の脱毛してしまった参加者にコンプレックスを感じさせないように、毎回必ず髪を後ろで束ねています。

 

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一人の女性が、あっけらかんと何のためらいもなく帽子を脱いでうっすら産毛の生えているだけのつるつるの頭部をさらけ出す。

また別の女性はあたかも帽子を脱ぐかのようになんのためらいもなくかつらをとる。

すると次々に皆かつらやターバンをほどいてテーブルの上に置き始める。

もっと深刻な面持ちで始まることもあるけれども、今日は明るく和やかな雰囲気でおしゃべりが始まる。

 

「私も家族ももうこの毛髪のない頭に慣れたけど、周囲の人たちがショックを受けるから人前では〔かつらを〕とらないようにしてるのよ。でも今日は大丈夫よね」

 

「スキンヘッドのまま外出するのは、裸で人前に出るのと同じような気分よね」

 

そうだわ、私だって人前でいきなり洋服を脱ぐのは恥ずかしいけれど、温泉に入るときは真っ裸でも、皆お互いさまだから恥ずかしくないのと似たような感じなのかも……と心の中で思っていると、突然、参加者の中で一番若く、波のようにゆらりとロングヘアーをなびかせているマリーが、

 

「こんなのひどすぎる。私のこの自慢の髪が全部抜けてしまうなんて死んでしまったほうがましだわ」

 

ワーッと泣き崩れてしまう。

彼女は、まだ二十台前半、現在も入院中で点滴をつけたままアトリエに参加している。

死んでしまった方がまし……参加者の誰もが一度は死と向かい合ったことがあるに違いないので、マリーの言葉に一瞬にして重苦しい空気に包まれる。

 

「人によって副作用はさまざまだからまだわからないわよ」

 

「いったんは抜けてもまた生えてくるのだから心配しなくても大丈夫よ。かつらは一時的なものだから」

 

闘病生活の先輩たちが、なんとかマリーを慰めようと楽観的な言葉をかける。

 

「私なんて、鬘にしてから、何も知らない隣人からよく似合うって褒められちゃったのよ」

 

とブロンドのボブヘアがとてもナチュラルな参加者の一人が話し出した途端、私は思わず振り返って彼女の方を見てしまう。驚いたのは私だけではない。

 

「あなたそれ鬘なの?」

「信じられない」

「どこで買ったの?」

「あとで教えるわよ。久しぶりに会った男友達からも、急にきれいになったって誘われちゃったのよ。地毛が生えてきても鬘のままでいた方がもてるかもって思ってるところよ」

「今までのスタイルを変えて、イメージチェンジするいい機会かもね」

 

こういう時、同じ病を経験した女性どうしの言葉は私たちエステティシャンの慰めよりもずっと説得力がある。

けれどもマリーは泣き止まず、仕方なくコーディネーターのソフィーが病室まで付き添っていく。

あの若さで癌の宣告を受けただけでも耐え難い苦悩があるだろうに、これから自分も立ち向かわなければならない抗がん剤治療の副作用をまざまざと見せ付けられたショックは、計り知れないものがある。

他の参加者も今では自分の病とうまく折り合いをつけているけれども、そこまでたどり着くには混乱や戸惑いそして葛藤があっただろうと想像される。


しかしながら、今日の目的はビューティーレッスンなので、気を取り直して本題に取り掛かる。

 

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もう一人のエステティシャンのナタリーと基礎化粧品とメイク用品がぎっしり詰まったポーチ(販売価格にして3万5千円相当)を各参加者の肌色に合わせて配布し始めると、先ほどの沈んだ空気は一気にどこかに吹き飛んでいった。

美容の力は偉大だと感じる。

 

「全部本物の商品だわ」

「これ全部もらっていいの?」

「こんなにたくさんの化粧品、本当にいいの?」

 

クレンジング、トニックローション、パック、デイクリーム、ナイトクリーム、ファンデーション、コンシーラー、頬紅、アイシャドー、マスカラ、口紅……ゲラン、ランコム、クラランス、クリスチャンディオールエステローダー、ロレアルパリ……全部で15品。

すべて協賛企業から無償提供を受けている。

 

ステップ1. クレンジング

一人の参加者にモデルになってもらいクレンジングのデモンストレーションを行う。病気治療のため乾燥している肌に負担をかけないように、たっぷりめの量のクレンジングミルクを手のひらにとり、顔全体を優しくなでるように汚れとなじませていく。頬を包み込むように両掌を軽く滑らせただけなのに、彼女は目を閉じてふっと息を吐きながら

「ああ気持ちいいわ」

とウットリとくつろいだ表情になる。

参加者に喜んでいただき、自分の技術が役にたっていると実感できるのは、何よりうれしい。今日は休日返上でボランティアに来ている疲れも吹き飛んでいく。

ティッシュペーパーで全体の汚れをふき取った後、トニックローションでさっぱりするまでタッピングすると、クレンジングをしただけなのに汚れとともにくすみもとれて、肌が生き生きとよみがえってくるのが実感できる。治療の後遺症で敏感になっている肌をいたわるために、ここではダブルクレンジングやスクラブは推奨しない。

 

ステップ2. 保湿ケア

肌のかさつきやつっぱりを防ぐための保湿ケアは何よりも大切で欠かすことができない通常使用量の2倍のクリームを顔と首全体になじませてから、顔の中心から輪郭に向かって、下から上に向かって指先で螺旋を描きながらクリームを浸透させる簡単なマッサージの手順を紹介する。血行を促進する効果もあるため、顔色がほんのりバラ色になってくる。

 

ステップ3. パック

パックの有効成分を最大限に浸透させるには、クレンジング後の清潔な肌に行うのが一番効果的ですが、闘病のため乾燥し、抵抗力の衰えた肌には効果が強すぎて、リアクションが出ることも懸念されるため、例外的にクリームの後に行うよう指導する。顔、首に肌全体をしっかり覆うように塗布し、10分ほど放置する。

 

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その時、先ほどまでは口数の少なかった一人の参加者が、遠慮がちに口を開く。

 

「この場を借りて、皆に聞いてもいい?」

「何?」

「私一回目の抗がん剤治療を受けたところなんだけれど、もうすでに髪の毛が抜けだしたの。鬘はもう購入してあるから、この際2回目の治療までに思い切って全部剃ってしまった方がいいと思う?」

「確かに、髪の毛が束になって抜けるのを見るのはとってもショックよ。自分の一部が失われていくみたいに感じたわ」

「でもいきなり剃るのもかなり勇気がいるわよ」

「あなたそんなことできるの?」

「……」

「まず手始めに10センチくらいカットしてみるといいわよ。それに慣れたらまた少し短くするの。長い髪がどんどん抜けていくのを見るよりも、短い方が気分的に楽よ。それに周囲にも髪が薄くなったのがわかりにくいわよ」

「ショートカットを試すいい機会だと思ってやってみたら」

「さっそくそうするわ。ありがとう。病気の事話し合えるのって、いいわね」

「家族も友人も、病気の事に触れるの避けてるものね」

 

ティッシュペーパーでパックをふき取ると、化粧のりがよさそうなしっとりとした肌に生まれ変わる。

 

ステップ4. ファンデーション

「ファンデーションは肌に悪い」と思い込んでいる女性も少なくないので、逆に肌を紫外線や大気の汚れや埃から保護する役割もあることをわかってもらう。

 

ステップ5. コンシーラー

目の隈やしみ、にきび跡などをカバーするために部分的に使用する。

 

ステップ6. パウダー

肌の表面を滑らかにし、化粧もちをよくするために、パフまたは筆を使って透明のパウダーを顔全体に塗布する。

 

ステップ7. チーク

「さあ笑って笑って!」鏡の前で笑顔を作って、盛り上がったところにふんわりとぼかしながら色をのせる。少し赤みが差すだけで、俄然として元気な顔つきに変わる。

 

ステップ8. アイブロウ

治療の副作用で失われた眉毛を不自然にならないように描くことは参加者の一番の関心事であり、一同の注目が集まるところなので、全員が習得できるように参加者一人一人に目を配りながらデモンストレーションを行う。

 

ステップ9. アイライナー

 

ステップ10. アイシャドウ

 

ステップ11. マスカラ

睫毛の残っている人は、マスカラも塗る

 

ステップ12. 口紅

最後に口紅を塗ってメイク完了。

 

病院での参加者の中には、これまで一度もエステティックサロンに行ったことがない女性や、一度も化粧をしたことがない女性もいるので、彼女たちが翌日から自分でできるように、たっぷり時間をかけてわかりやすく簡単に説明することが求められる。

そして最後にかつらを装着すると、まるで魔法にかかったかのように病人から一転して生き生きしたマダムに変身。

 

「鬘のいいところは、いつでも美容院でブロウ仕立てのヘアスタイルでいられることね」

 

鏡に映った自分を見てきれいと感じるのはいくつになっても嬉しいもの。自然に表情がほころび笑い声があふれる。

 

「今の私たちはルネサンス(仏語で再生、復活の意)の真っただ中にいるのね」

「その言葉、今の気分にぴったりだわ。体中の毛がほとんど全部抜けて、最近産毛が生えてきたから、なんだかこの年になって赤ちゃんみたいで大人の女性としての魅力はなくしてしまった気分だったの。でも今日ここに来たおかげで、前向きに考えられるようになったわ。そうよ、まさにルネサンスなのよ。私たちは復活できたのね」

 

そろそろ終了の時間が近づき参加者一人一人と挨拶を交わしていると、その時、先ほどまではとてもにこやかにしていた一人の参加者の目からみるみるうちに涙があふれる。

「ごめんなさい泣いてしまって。我慢しなきゃいけないのに。いろいろつらかったことを思い出してしまって。病気になって以来はじめて、またきれいになれて、嬉しくて涙が出てしまったの。今日はどうもありがとう」

そばにいたナタリーがそっとティッシュペーパーを手渡しながら、

「せっかくのお化粧が涙でくずれてしまいますよ。さあ笑って笑って。今日はもう泣いちゃだめですよ」

と気の利いた言葉をかける。

今日は、涙で幕を開け、また涙で幕を閉じた。涙は涙でも最後のうれし涙は、私の心にジーンと響き渡りました。

メイクによる美しさはやがては剥がれ落ち消え失せてしまうはかないものにすぎませんが、いったん心の中に蘇ったナルシシズムはこれから前向きに生きていくための助けになるでしょう。

メスが入れられた傷痕や年齢を重ねた証の目元の皺は消すことができないけれど、気持ちはいつまでも若い時のまま、心に皺を作らないのが人生を楽しむ秘訣なのです。

 

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私がボランティアを始めてから2年余りが過ぎたころ、いつものように病院で患者さんをお出迎えしていると、見覚えのある一人の女性に出会いました。

希望者が多いので原則一人一回の参加しか認められていません。

ただし例外があり再発した場合は、もう一度参加できるのですが、ひょっとしたら私の勘違いかもしれないとも思い、また、なんと声をおかけしていいのか戸惑いもあり、

 

「ボンジュール、ようこそいらっしゃいました」

 

と当り障りのないご挨拶を交わしましたが、レッスンが進行していくにつれ、彼女の慣れた手つきを見るにつけ、間違いなく同じマダムだと確信しました。

終了後、お見送りをする際に、

 

「その後、おかげんはいかがですか」

と思い切って話しかけてみました。

「私のこと覚えていてくれたのね」

「もちろんですよ」

「残念なことに転移が見つかって、また病院に逆戻りしちゃったのよ。でももう大丈夫、このレッスンに参加すると、病人の気分は吹っ飛んじゃうのよ」

「口紅のお色がよく似合っていらっしゃいますね」

「ありがとう。あなたの説明の仕方もずいぶん上達したわね。今日は楽しかったわ」

「ありがとうございます」

「私は、もう次がないことを願っているけど、あなたはこれからも病気の女性たちのためにぜひ続けてくださいね」

と温かい言葉をかけていただきました。

私も彼女にもうお会いすることがないように心から願っています。

 

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10年以上前にこのボランティア団体の面接を受けた時に

「モチベーションは何ですか?」

と尋ねられ、私は

「ソシオエステティシャンの資格を持っているので、それを生かして病気の女性の役に立ちたい」

と答えたように記憶しています。

その後経験を重ねるにつれて、あの頃の私はなんて自己満足的な傲慢な考えをしていたものかと恥ずかしく思います。

 

Belle et Bienでは、他社のエステティシャンと一緒に司会進行を行い、癌治療の後遺症による身体イメージの劣化を和らげるために、参加女性たちの肌が少しでも改善され、心が前向きになれることを考えてアドバイスしています。

そうする中で出会える同業者同士の意見交換や、参加者との交流は、通常業務では得ることのできない貴重な経験であり、私自身の心も豊かにしてくれるのです。

ビューティレッスンの後、参加者の「きれいになったから今夜はお出かけしなくちゃ」とか「人生まだまだこれからよね」という一言一言が私の心に響きます。

女性にとって‟きれいと思える”のはなんて大切なことでしょう。そしてそのように感じることで私はエステティシャンであることを誇りに思い、また翌日からの仕事の励みにもなるのです。

病にある女性たちの手助けというよりも、私の方が力づけられているのです。