千代に八千代にパリジェンヌのように美しく

パリのエステシャンがあなたに伝えたい、年を重ねても美しいパリジェンヌのきれいの秘訣

美容整形 賛成? それとも 反対?

もう20年も前の話になりますが、エステティック専門学校の授業の一環として、美容整形クリニックを訪問したことがあります。

エステティックサロンの顧客層は美意識が高く、美容整形にも関心をお持ちのため、私たちエステティシャンの卵もその基礎知識を習得する目的のためでした。

まだ美容整形手術が、一部の限られた人たちだけのものだった時代の話です。

 

パリ16区の高級住宅街にある、元は貴族の邸宅であった瀟洒なクリニックを見学した後、院長先生から、顔のリフティングや腹部の脂肪吸引、バストアップ等の技術について説明を受けました。

パリの富裕層マダム御用達の優雅な若返りサロンであり、私には無縁の世界を垣間見る良い機会となりました。

 

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当時の私は、皮膚をメスで傷つけ、体内の脂肪を無理やり剥ぎとり、バストに異物を挿入してまで、そこまでして外見をよく見せたいとは思いませんでした。

時の経過とともに後遺症が出るのではないかと危惧してもいました。

 

見学の最後には、バストの矯正手術を受けた看護師さんが、そのおかげでいかに自分がコンプレックスから解放されたかについて、熱心に話してくださいました。

3人目の出産後、下垂したバストを息子さんからも指摘され、自分は魅力的だと感じられなくなりましたが、術後はためらいなく露出の多いドレスを着て外出できるようになったそうです。

 

まだ、パリに住み始めて間もなかった私は、彼女は、妻であり、母でもあり、そして看護師でもあり、その上さらに一人の女性として魅力的でなければ満たされないなんて、あまりにも欲張り過ぎではないかと思いましたが、今なら理解できます。

いくつになっても自分を主張し続けるのです。

結婚、出産、離婚、再婚等、人生の過程で、または職業のキャリアの過程で、立場は変化していきますが、自分自身のアイデンティティーは、ぶれることがないのです。

そういえば、つい最近フランスのアイデンティティカードの更新をしたばかりですが、私の旧姓は、結婚後も残ります。

その横に配偶者の姓が明示されています。

フランス人が個人主義と評される所以の一つかもしれません。

「妻であり、母である以前に、私はずっと私のままだから、自分の満足のいくように生きていく」のです。

フランス人女性の自己主張は、単なる自分勝手というわけではないのですね。

 

 

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当時30代前半で、エステティシャンを目指していた私は、老いに直面するのはまだまだ先の話だったこともあり、バランスの取れた食事や規則正しい生活習慣と毎日のお肌の手入れを怠らなければ、美しく年齢を重ねることができるものだとなんら疑いなく信じていました。

そればかりか、自分の持って生まれた肉体にメスを入れて人為的に見た目を変えてしまうなんて、なんだかずるい行為のようで、恥ずかしいことのように思っていました。

日本では、美容整形手術は、他人に知られないようにこっそりと受けるものでしたよね。

 

美容整形のみならず、眉毛やアイラインのアートメイクも普及し始めたころでしたが、私は人工的な美容手段には反対でした。

完璧に描かれた眉毛やすっと滑らかに引かれたアイラインは、洗練された顔に仕上げてくれます。毎朝、お化粧に費やす時間も短縮できます。

でも、何年も同じメイクをし続けることになるのではないか、と疑問に思っていました。

眉毛やアイラインの描き方は、時代とともに流行り廃れがあるものだし、私の顔だって当然年齢相応に変わっていくのだから、顔の一部だけ皮膚の中に色を入れて形を固定してしまうといずれは不自然な顔になるだろうと考えていました。

ずいぶん前には、太くて一直線の黒い眉が流行ったこともありました。その後、眉山のはっきりした細くて長めの、顔を立体的に見せる効果のある眉毛が主流になり、そして最近はもっとナチュラルな形になってきました。

流行に合わせていきたいですよね。

 

 

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エステティシャンになってからは、職業柄、美容整形手術を受けられたお客様にお目にかかることは珍しくありません。

美容整形を始める前から、エステに通ってくださっているお客様もいらっしゃいます。

ある女性は、瞼のたるみを取る手術、頬をふっくらさせる手術、唇のコラーゲン注入、豊胸手術にヒップアップ。顔も体も数年間ですっかり変貌されてしまいました。

やりすぎはいけませんね。

「どうしてドクターが、ストップをかけないのかしら」

と疑問を抱きましたが、病気治療の場合とは違い、主導権は患者さんにあるのですね。

最近、久しぶりにご来店くださいましたが、クリニックを変えられたのか、見違えるほどきれいになっておられました。

新しいパ-トナ-との出会いもあるようですが。

 

別のお客様は、いつも大小2個のルイ ヴィトンのバッグをお持ちでしたが、ご本人はとても地味な女性で、自信のなさを隠すために高級ブランドのバッグを提げておられるように感じていました。

ところが、1年ぶりにお会いした時には、一瞬どなただかわからないくらい変身されておられました。

まっすぐ前を向いて背筋を伸ばして歩きながらサロンにご来店されたご様子は、別人のようでした。顔も体もシャープになられ、それを際立たせるようにボディラインに沿った洋服を身に着けておられました。

お仕事でロサンゼルスに滞在された機会に、アメリカ人の影響を受けて、思い切って整形されたとか。アメリカは世界一の美容整形大国ですからね。

 

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整形経験者の中で、もう一人印象に残っているお客様の事を思い出します。

ある時、お電話で、貫録のあるお声の感じからして65歳くらいのマダムがアンチエイジングのフェイシャルトリートメントをご予約されました。当日、ご本人が入っていらっしゃった時、お電話とは別人がご来店されたのだと思いました。すらっと伸びた長い脚、豊かに盛り上がったバスト、つるつるのお肌、一見40歳くらいにしか見えませんでした。

でも、さすがに声の若返りまではできないようで、お話を始められると同一人物であることがわかりました。

機会があれば、どちらのクリニックに通っていらっしゃるのか教えていただきたいくらい、お若く見えました。

後日彼女からの紹介でご友人がご来店くださいましたが、一目で、同じクリニックで施術を受けておられると想像がつきました。

お顔がそっくりというわけではありませんが、表情がとても似ておられました。

 

整形手術は、一旦やり始めるとエスカレートしていくのか、それともこれを機会にコンプレックスを一気に解消しようと思うのか、全体のバランスを保つために数か所にメスを入れることになるのか、いずれにせよ、何度も繰り返す人が多いようです。

女性の望みを一つずつかなえていくと、よく似た顔つきが出来上がってしまうのでしょうね。

そして、術後は以前よりも大胆な服装をするようになります。

大金をかけて、痛い思いをしてまで獲得した肉体を見せびらかしたいのは当然ですね。

外見のコンプレックスから解放されると、全身から自信がみなぎっています。

フランスでは、ヴァカンス後の日焼けがいまだにステイタスシンボルなのと同様に、美容整形で美しさを保つのもその一つと言えるかもしれません。

 

 

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国際美容外科学会(ISAPS)の統計によると、2016年に世界中で一番多く行われた美容外科手術は、豊胸手術でした。

意外なことに、フランス国内でも同様の結果でした。

日本美容外科学会(JSAPS)の統計では、日本国内では圧倒的に顔の手術が大きな割合を占めています。

 

フランスでは、シリコンパックの発がん性を指摘する声がありましたが、2011年に豊胸手術に使用されたシリコンパックの体内での破裂が原因とみられるリンパ腫による死亡が公表され、一大スキャンダルとなりました。

 

原因となったシリコン製の豊胸パックを製造したフランスのPIP社の製品は、世界中で販売され、使用者は40万人と言われました。

医療用に認可されていないシリコンを使用したため、体内での破裂率が高く、がんを引き起こすことが大問題になりました。フランス保健当局は、直ちにすべての該当患者にシリコンパックの摘出を指示しました。

 

このような重大事件が発覚してからまだ数年しか経過していないにもかかわらず、バストアップのために異物を体内に入れることに抵抗はないのでしょうか?

 

他社の製品を100%信頼しているのか、それとも危険を承知の上で、魅力的なバストを手に入れたいのか、女性が美しくなりたいと願う気持ちは命がけなのですね。

 

確かに、フランスの洋服は、デコルテが大きく開いた肌を露出するものが多いです。

体型カバーよりも、女性の体を魅力的に見せることを目的にしています。

日本のボディスーツのような補正下着やガードル、寄せて上げる効果のあるブラジャーもあまり見かけません。

ストッキングも、繊細なレース柄のエレガントなものは色もデザインも豊富にそろっていますが、あまり伸縮性はなく、引き締め効果は期待できません(フランス人は、年齢を重ねても脚はすっきりした体型の女性が多いですが)。

 

昔、私の母が外出する時にいつも洋服の下に着ていたような、あのお尻から胸までの贅肉をすっぽり包み込んでバストアップを可能にしてくれるベージュのボディスーツを、もしも私が身に着けているのを夫が目にしたら、彼はどれほどショックを受けるでしょうか?

「そんなの着てごまかすくらいなら、普段からスポーツして体を鍛えれば…」

私の胸にグサッと突き刺さるような冷たい一言を浴びせられそうです。

 

老いも若きも年齢に関係なく、体型にも関係なく、自分が魅力的に見える装いをしています。

バカンス先では、燦々と降り注ぐ太陽の光を最大限に享受するために、ビーチではもちろんビキニを着用します。

当然、ムダ毛は、ご法度!です。

「ビーチでムダ毛処理をしていない女性がいたら、彼女は絶対にフランス人じゃない!」

と、フランス人の友人は断言しています。

日頃から、ボディケアは欠かせません。

 

化粧品も日本に比べるとボディケア商品が充実しています。

TVでは、ひっきりなしに、ムダ毛の処理やスリミング等のボディケア商品のCMが流れています。

もちろんフェイシャル化粧品のCMもありますが、日本に比べるとボディケアの重要さを感じます。

春先から夏にかけては、女性誌では、脱毛、スクラブ、引き締め、スリミング、セルフタンニング*化粧品や日焼けを長持ちさせるためのケアに至るまで、フェイシャルケア以上の種類のボディケア商品が紹介されています。フランス人女性のボディケアへの関心の高さがよくわかります。

* 一時的に肌色を変化させる効果があり、塗るだけで日焼けをしたような小麦色の肌になれる化粧品。ヴァカンス前の日焼け準備のためにも使われる。

 

 

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フランス世論研究所 (Ifop) が2018年7月に行った美容整形(外科手術ならびに非外科的施術も含む)に関するアンケートによると、フランスでは10人に1人の女性がすでに何らかの美容整形を経験済みであると回答しています。

 

1位は、バストの矯正

2位は、レーザー脱毛

3位は、しわ軽減のためヒアルロン酸ボツリヌス菌等の注入

 

ISAPSの統計と同様、1位はバストですね。

 

私の興味を引いたのは、次の質問です。

 

美容整形経験者もしくは将来は受けようと考えていると回答した女性 (全体の23%)に、その動機を尋ねたところ、(複数回答可のため合計が100を超えます)

(カッコ内は、2002年に6月に行われた同様の調査の結果です)

 

1位 より自分に満足できるため 68 (69%)

2位 身体的コンプレックスから解放されるため 55% (34%)

3位 若さを保つため 13% (15%)

4位 職業上都合が良いから 6% (11%)

5位 パートナーに気に入られるため 5% (21%)

6位 現代では、若々しく見せなくてはいけないから 2% (7%)

 

「パートナーに気に入られるため」と答えた女性は、21%から5%に減少していることからも明らかなように、異性の目を気にして美容整形に駆け込むのではなく、さらなる自信をつけ前向きに生きるため、自分のために受けています。

 

一方で、美容整形に頼る気はないと回答した77%の女性の意見は以下の通りです。

 

1位 年齢を重ねることは悩みの種ではないから 73%

2位 費用が高すぎるから 32%

3位 手術に伴うリスクが怖いから 22%

「周囲の目が怖いから」美容整形を受けないと答えた女性は1%未満でした。

 

1位は、フランス女性らしい意見ですね。

女性の価値は若さで判断されないと確信しているのです。

 

美容業界では、決して老化肌という言葉は使用しません。

更年期にさしかかる45歳ころからのツヤやハリを失いかけてきた肌は、 成熟したという意味の単語 mature を使い、「la peau mature 成熟した肌」と表現します。

フランス女性は、年齢とともに老いて衰えていくのではなく、チーズやワインのようにじっくりと手間をかけて熟成されていくのですね。

 

 

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さて、もうすっかり成熟肌の年齢に達した今の私は、美容整形に対する考え方も寛容になりました。

バストアップとヒップアップ、お腹周りの余分な脂肪も一気に吸い取って、それからフェイスラインをきゅっと持ち上げて、眉間のしわにはボトックス、額にはヒアルロン酸を注入して……と鏡の前でお腹を引っ込めたり、顔を引き上げたり膨らませたり、あれこれと思い浮かべているところです。

今まで、お肌のお手入れも怠らずにやってきました。身だしなみにも気を使っています。

それでも、外見は衰えてきます。

生まれた時から、人生は前に進むだけなのですから仕方ないですよね。

鏡の前で、自分の顔を眺めて溜息をつくくらいなら、さっさと悩みを解決してしまった方がいいと思いませんか?

エステティシャンの経験を重ねるにつれて、美容整形に頼る女性の気持ちがわかるようになってきました。

私の人生は、まだ何十年も先があるのです。これからも新しいことに挑戦したり、新たに多くの人と出会うこともあるでしょうから、老いて衰えていくにはまだ早すぎるのです。

そんな自分の中の意欲の年齢と、外見の年齢の調和が取れなくなってきたら、美容整形を試そうと思っています。

同様に、アートメイクに対する考え方も変わりました。

技術が進み、より自然な眉毛を描くことができるようになったこともありますが、それよりも、ある程度の年齢になればもう、流行のメイクをまねる必要はないからです。

自分の顔に合った眉の形に固定してしまっても構いません。

自分の顔を周囲に合わせるのではなく、自分の顔は責任をもって自分で決めたいのです。

 

つい先日、夫から、

「クリスマスプレゼントは何がほしい?」と聞かれ、

両手で両胸を持ち上げてから、次にその手で頬を包み込んで顔全体を持ち上げてニコッと微笑んでから、

「整形手術でもプレゼントしてもらおうかな」と答えました。

「失敗したら後悔するからやめといた方がいいと思うよ」と、私からの予想外のお願いに困惑していました。

「大丈夫よ。まず手始めにボツリヌス菌とかヒアルロン酸とか注入するだけだから」

「そんなことしたら、千代美らしさがなくなるから賛成できないね」

夫には、いつまでも魅力的でいたいと願う女心はわかってもらえません。

今年のクリスマスプレゼントは、おあずけになってしまいました。

  

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